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ビジョンは1Wで語れ!

経営や開発における「ビジョン」について考える機会がありましたので、製品設計から体験設計へ視野を広げる活動とビジョンとの関係、役割やその具体例について概要まとめてみます。

これらの論点はCXDS体験設計プロトタイピング研究会の議論の中から出てきたものです。研究会では、製品設計より大きな設計領域である体験設計を実践するために、企業内の内向きのプロトタイピングだけでなく開発プロセスをビジネスや社会との関わりの中に組み込むような外向きのプロトタイピングにも着目しています。(この議論に参加したい方はCXDS事務局までご連絡ください。)


ビジョンはコミュニケーションの切っ掛け

製品開発においてビジョンは必要なのか?またその役割は?ということが話題になりました。当初は私は「ビジョン=開発目標(顧客要求)」と考えていましたが、研究会ではさらに上位のものとして定義し「ビジョン=皆が集まる旗印」という考え方にまとまっていきました。

現在のネットワーク化され複雑になった製品(システム)の開発には、複数の知識や技能を持つ企業(人)の連携が不可欠であり、それらを結び付けることがビジョンの役割だと定義しました。

これまでは1つの企業(人)が作るものを決めて顧客要求や製品仕様を設定しそれを実現するために人が集めていました。つまり発注元/下請けとして集まることがほどんどでした。

それに対してビジョンによって集まった人たちは、ビジョンに共感しそこから何をするのか、何を作るのかを一緒に考えていくことになります。素晴らしいビジョンはより多くの企業や人に興味をもってもらい「一緒に何かをしたい」と思わせるものです。

最近はYouTubeやTwitterなどでちょっとした有名人が沢山誕生しそこで集まった人たちが面白いことを始めるということが起きているみたいです。最初に具体的な目的があるのではなく、魅力や共感によって集まる中で「何か具体的なことをやりましょう」となっていく感じです。子供のころに放課後に集合してそれから何して遊ぶかを考えていたのに少し似ているかもしれません。

そういったユルイ繋がりを作るためにビジョンを示して集まることが大事だと思います。この議論を進めているCXDS(体験設計支援コンソーシアム)では「体験設計」というビジョンを出して色々な人たちが集まっています。体験設計が何なのかということは誰も正しい答えを持っていませんが、それぞれがその言葉からイメージする新しい視点に魅力(可能性)を感じて参加しています。


ビジョンは1W

似たような考えの人たちだけが集まってモノ作りをしていると、開発がスムーズに進む代わりに、市場や社会の状況が変化したときに対応できなくなります。異なる立場・異なる意見を持つ人たちが集まることでより多様な環境に対応しやすくなります。

そのためビジョンを曖昧にし共感できる人の多様性を確保することが良いのではないかと仮説を立てています。

「子供達のため」「地球環境のため」「地域のため」「50年後のため」といった具合に、何について、何処について、何時について(1W)を一つだけ掲げるのが良いビジョンになります。

より多くの多様性があるメンバーが集まるビジョンが出来れば最高ですが、あまりにも一般的な「世界平和」とかだと否定する人はいないと思いますが強い共感を得ることは難しいかもしれません。


開発はビジョンからシナリオ(5W1H)に移行

もちろんビジョンだけでは何も開発できませんので、次のステップとしてそのビジョンを具体的に実現するための方法を集まったメンバーで考えていきます。

誰が何をいつどのように動けば実現できるのかというシナリオを出していきます。ビジョンに近づくシナリオは無限にあるため、それを評価して絞り込んでいく必要があります。

ビジョンによって集まった多様な立場の分だけ評価軸がありますので、それらをまとめて体験設計としてまとめていくことになります。多様な立場の中に「(ビジョンの)当事者」が参加していれば当然重視されなくてはなりません。

ビジョンからシナリオを一緒に作ることで、それぞれの役割分担に分かれたとしてもシナリオを実現する動機を同じように持つことができます。シナリオ作り(=体験設計)をおこなうスキルが必要ですがこれを身に着けることで新しいビジネスプロセスに参加できる魅力があります。

もちろん具体化していくこの段階で「ビジョンには共感したがシナリオには共感できない」と感じる企業もでてきます。その企業はそこで降りることもできます。

ビジョンを一旦置くことのメリットの一つが、具体的な製品開発への投資をする前に判断することができるという点です。早めに判断できることで次の案件に向かう体力(資金・時間)を残すことができるのです。


ビジョンが達成できたか評価できるのは最後

ビジョンは開発に必要な具体的なものは示していないため当然評価することも難しくなります。ビジョンは1Wですので「〇〇の為になったのか」「〇〇に貢献できたか」という極めて抽象的な評価しかできません。それは製品が社会実装され、人が経験し社会が経験した後でなければ答えを出すことができないということです。「歴史が判断してくれる」しかないのです。

開発中においてはビジョンは評価するものではなく、異なる立場の人たちと一緒に課題を実現していくためのモチベーションとして常にプロセスの中で意識していくものになります。多様な立場の人が大きなシステムを作る場合には利害関係や目標の違いなどがいくつも現れてきますが、そこを解決していくモチベーションはビジョンしかありません。

根っ子となるビジョンがしっかりしていることで、空中分解せずにプロジェクトが維持できることが理想ですが、その辺りは実際に実践をしていかないと分からない領域です。研究会では事例収集もおこなっていきたいと思っていますのでまた続編が書けたら公開します。

<今回はここまで>



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