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酩酊のタイポグラフィ

● 今宵堂の酒器展 「酩酊のタイポグラフィ」
2024年 3月24日(日)~ 29日(金)
初日24日のみ 12:00 ~ 18:00
25日以降は 10:00 ~ 18:00
会場 / 日本の酒情報館
東京都港区西新橋1-6-15 日本酒造虎ノ門ビル1F
電話 / 03-3519-2091

春の野は百花繚乱、宴に伴する盃の装いも古今東西色々。釉の色肌のみならず幾何学紋様に花鳥風月、そして「文字」もまた装飾として器に配されます。

呑み喰いのための道具に「文字」が記されるその意味は?盃中の詩歌は酒で揺らぎ、猪口の銘柄を見つめてはその味に浸る。呑んで詠んで呑まれて読んで・・・読みすすめば酒もすすむ、ふざけた小さな「酔む」酒器たちで、春の一笑をどうぞ。

「偽リ徳利」

内にではなく、外に見せるために。

文字は自らが読むのみにあらず、
人へ「読ませる」ための情報にも。
仰々しく徳利の胴に書かれた文字を
堂々と相の方へ向けて呑めば、
憚ることなく酔うことができる。
人の為と書いて偽り・・・とはいうけれど、
果たして騙されているのは相手か己れか?
「金魚盃」

呑兵衛が見てしまう一画。

金魚が泳げるほどの薄い酒を
「金魚酒」なんていうけれど、
薄い酒でも度を過ぎれば酔いも深まり泥の底。
酒の揺らぎと金魚が 一つの文字なんかに
見えちゃったら、 ちょいと酔い過ぎでは?
「景漢皿」

文字を眺める不思議な文化。

月下で待つ妻。
倒れた男の来た先には何やらさんずいが・・・?
日本には「書」という
文字そのものを眺めて愛でる芸術がある。
どうせならと、
文字を絵のように皿に配し小さな物語を。
「貧乏徳利」

質素もハイソもみな貧乏。

古来、酒を樽で買えない庶民が量り売りのために
酒屋へぶらさげていった少量の徳利。
区別のために名前や屋号や町名など
「文字」を用いた酒器の代表格。
同じ貧乏とはいえ、
地名によって差がある気がするのはなぜ。
「熊猫かぶり碗」

言葉には、白と黒がある。

酒(ささ)= 笹薮の中に棲む虎から転じて、
大酒呑みを大虎というなら、
パンダだって笹が大好き。
でも「熊猫」なんていうんだもの、
猫をかぶってるかもしれない。
表ではかわいい声で甘えていても
裏では何と思ってるやら・・・。
「アテ字皿」

肴皿へ、書き殴りたい衝動。

割り勘で夜露死苦とカウンターに、
魔武駄致と並んでサシ呑みを。
鬼魔愚零で選んだこの肴が、
本気で旨くて愛羅武勇。
ふたりで盃交わしたならばオレとお前は走死走愛。
今宵も仏恥義理だぜ!
「恋文盃」

盃へ、この恋心をしたためて。

焦がれる気持ちを歌にして、
そっと送り合った平安時代。
彼の時代の恋人たちに倣って、
踊る「かな」を模様のように平盃の裏へ密やかに。
静かに酒を酌んで啜って、
微酔の頃に気付いてほしい。
「盛切蕎麦猪口」

酒の神の御言葉が、そっと現れる。

猪口から外の皿へなみなみと注ぎこぼ
「盛り切り」は、あふれるほどの神の愛。
皿の酒も残すわけにはいかないと、
敬虔な呑兵衛の元に現れるのは、
酒の神の御言葉・・・。
神託の通りに従って進んでゆくべし。
「偽ノ銘猪口」

眺めていたい酔いを誘う言葉。

旅の土産にと連れて帰りたくなる、
酒の銘柄が入った蛇ノ目猪口。
正宗をはじめ、鶴や菊、松に桜に梅に牡丹と、
酒の名はなんと心地よいものか。
酔ってふざけて書いてみた銘柄、
呑んで笑ってご容赦を。
「いろは皿」

寺子屋でも学んだ「酔う」という言葉。

11世紀頃には成立していた「いろは歌」。
古来より多くの子どもたちが
唄ってきたこの歌の〆に、
実は「酔」という言葉が入っている。
「酔ひもせず〜」と何度も復唱しながら
姿勢正して晩酌を。
「京都盆盃」

京都は巨大な文字に囲まれている。

盆地のお盆に灯されて、都の夏は終わりを告げる。
吹墨を夜空に見立てた小さな平盃。
五山の送り火というけれど、
なぜか六つに見えるのは、
酔いが回ったせいなのか・・・。
「おちょ

酒をねだるひと言を囁く。

彼に向けて酌を促すのもよし、
独りで夢想するもよし、
今宵もこの娘はあなたの側に♡
「暖簾皿」

素面で捲って、泥酔してまた捲る。

元々はその字のとおり
暖気を逃さぬための簾(すだれ)。
鎌倉から室町にかけて店名や文字を入れて
看板の役目を果たすものに。
皿に掛ければ、いつでも酒場気分。
めくるも楽し潜るも楽し、
めくるめくパラダイスへようこそ。
「字々盃」

並べると現れる欲望。

例えば酒、あるいは銭。
ひとつの文字ならともかく、
並べてみると「欲」を感じる
タイポグラフィの不思議。
欲望の塊だと言う勿れ。
汗にまみれたあとならば、
酒にも銭にもまみれたい。
「漫画皿」

「フキダシ」という発明。

1896年、アメリカの新聞漫画で
初めて使用された「フキダシ」は、
紙という平面に音声や方向性を与える
画期的な表現方法。
同じく平面の皿にもその技法を施し、
酒卓というドラマの演出を。
「漢入盃」

平盃にいれるなら「カン」。

土と釉を組み合わせ、
焼いた時に器に入る小さなヒビ「貫入」。
駄洒落て「漢」字も一文字入れて、
ついでに「燗」も入れたいもの。
酒が無くなる「干」はアカンけど
目出たく杯を「乾」ならええな〜。
「良寛詩皿」

漢字から風景を想像する。

良寛が詠んだ酒詩を写した肴皿。
器に書かれた詩を眺めつつ酔うのは、
漢字という「意味を持つ文字」を使う民族の特権。
歌の読みも意味もわからなくとも、
なんとなく文字から風景を思いつつ酔う夜を。
「阿弥陀蕎麦猪口」

線を一本選んで辿れば、
果たしてそこ(底)に何がある?

中国の酒遊び「酒令」をもとに、
漢字で罰ゲームの内容を書いた遊べる酒器。
「戯レ言盃」

酒面に漂う、ただ酔う詩歌。

俳句に川柳、狂歌に都々逸と
古からの歌を辿ると溢れんばかりの酒の詩。
詠み人は酒が好きで全く仕様が無い。
彼らのふざけた戯レ言(ざれごと)は、
「レ」を取っ払ってみると、
酔っ払いの戯言(たわごと)へ。
「KY徳利」

K = 考えて、Y = 読んでみる。

1950年代のMMK、2000年代のJKやKYなど、
言葉をローマ字の略語にして喜んできた日本人。
JMSは果たして「純米酒」なのか、
「常温よりもう少し冷めた」なのか、
ほろ酔いで考えて遊ぶ徳利。
「酩言皿」

偉人の言葉から 呑む理由を探す。

先人が遺した数多くの名言より、
今回はこの言葉を肴皿に。
「酒は人類にとって最大の敵かもしれない。
だが聖書はこう言っている、
汝の敵を愛せよと。」
(フランク・シナトラ)
「離レテ升」

五面に配された 文字の謎。

別れた面を持つ升という酒器の形。
それぞれの面に書かれた文字は果たして・・・?
別れる、離れる、隔てる、
そんな時代もあったけれど、
ソーシャルディスタンスをやめた時、
そこには素敵な言葉が現れ升。
「牛乳瓶徳利」

文字は名を表し、名は体を表す。

見慣れた容器の見慣れた文字の
スペルをちょいと変えてみたら、
用途が変わって中味も変わる。
チリンチリンと配達される瓶は
なんだか健康的な気分の徳利へ。
濁りを入れてホットで呑むもよし、
腰に手をあてグビリと呷るもよし。
「短冊箸置」

箸置による サブリミナル効果。

昼下がりの大衆酒場。
笹に垂らせば星に願いを、
酒場に垂らせば涎も垂れる。
魅惑の言葉を詠んだ短冊。
箸休ませる度に目に入り、
潜在意識を小さくくすぐる。
「二兎肴皿」

兎に問われ、盃片手に迷い箸。

二種の肴を左右に盛って、
右にしようか左にしようか、悩みながらまず一杯。
右はしょっぱい、左はすっぱい、
悶々しながらもう一杯。
どちらにしようか迷う間に
酔いがまわって寝落ち酒。
「べろべろもへじ」

お猪口も文字も、回る回る。

澄ました顔のへのへのもへじ。
酔いが回って猪口も回れば、
べろべろもへじの一丁上がり。
べろべろならばまだ「呂律ろれつ」は回る。
酒が進んで「よい」が回ると
もうすっかりべろんべろん。