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良寛和尚の般若湯器

酒器 今宵堂

● 今宵堂 「良寛和尚の般若湯器」
2022年 9月28日(水)~ 10月4日(火)
10:00 ~ 19:00(最終日は17:00まで)
会場 / 新潟伊勢丹 5階 ステージ5
新潟県新潟市中央区八千代1-6-1
電話 / 025-242-1111

今日もさけさけ、明日もさけさけ。
越後の国の「良寛」さんは、禅僧にもかかわらず酒を好んだキュートな吞兵衛。
野酌して畦道で眠るなんて愛すべき酔っ払いそのもの。そう、お坊さんだって人間。「般若湯(はんにゃとう)」なんて隠語でお酒をこっそり嗜む密やかさもまた愛しく・・・。
庶民と人懐っこく酌み交わし、飄々とこの世を生きた良寛。ほろ酔ってふざけてみたような、小さな酒器たちをどうぞ。

煩徳利ぼんどっくり

煩悩は生きし者の心の揺らぎ。
ならば酒の揺らぎによって鎮めるべし。
百八つの字の中にひとつだけ混じる 違う字を探すうちに
酔いもまた冷める也。
「坐禅盃」

呑まざる、喰わざる、酔わざる・・・と、 静かに座して無の境地へと。
文殊菩薩の励ましの如く、 酒をとくとく注いでみれば、 瞑想できずに酩酊へ。
「凧盃」

里の子らにせがまれて、 良寛和尚が凧に認(したた)めた「天上大風」の一筆。
弘法も筆の誤りというか、この日の和尚は、 どうやら出来上がっていらっしゃったようで・・・。
風にのった凧のように、空高く気分も上がる一杯を。
「五七五七七七三蕎麦猪口」

仏門の身など気にせず酒を愛した良寛和尚。
酔って詠んだ和歌も数々。 酒を呑まねば良い句はできず。
ならば31文字に七三のおやじを足して、 41(酔い)句と駄洒落たおやじギャグ。
「一寛人猪口」

ある日、子どもたちとかくれんぼ。 なんとひと晩藁の中に隠れていた良寛和尚。
器の縁に小さな人形が覗く「一閑人」。 和尚もこそっと隠れて酒を待つ。
「はやくお酒をもういっぱ〜い」 「まあ〜だだよ〜」と遊ぶ宴を。
「良燗さん」

笠をかぶった燗徳利は、 良寛和尚の托鉢姿。
施すならば銭より酒を、 徳を積むより酒を酌む。
人肌恋しい夜ならば、 人肌燗ならさらに良し。

「托鉢小僧」

財法二施功徳無量ざいほうにせくどくむりょう・・・ (物や教えを施すことは、功徳計り知れない) と、
唱えながら胴を持って一振りすれば、 チリンと酌を促す鈴(れい)が鳴る。
呑み干して杯が空になったなら、 かわいい顔してもう一振り。
「二日酔坊主」

すぐに飽きるのは三日坊主。 お酒は飽きずに瓶が空く。
酔いに任せてゆらゆら揺れて、 酔いが回ればくるくる回る。
猪口を伏せてひっくり返れば、 酔いが過ぎた坊主頭。

良寛が詠んだ酒詩を写した「詩歌肴皿しいかあてざら」。
器に書かれた詩を眺めつつ酔うのは、漢字という意味を持つ文字を使う民族の特権。その歌の読みも意もわからなくとも、なんとなく文字から風景を読み取りつつ。漢詩のルールなど気にせずに崩したタイポグラフィもきっと和尚なら許してくれるはず。

孟夏芒種の節  錫を杖いて独り往還す
野老たちまち我を見て  我を率いて共に歓を成す
蘆蕟聊か蓆を為し  桐葉以って盤に充つ
野酌数行の後  陶然畔を枕として眠る
行き行きて田舎に投ず  正に是れ桑楡の時
鳥雀竹林に聚まり 啾啾として相率いて飛ぶ
老農鋤を擁して帰り 我を見る旧知の如し
婦を喚んで濁酒を漉し 蔬を摘んで以って之を供む
相対して云に更に酌み 談笑一に何ぞ奇なる
陶然として共に一酔し 是と非とを知らず
日々日々又日々  閒かに児童を伴って此の身を送る
袖裏の毬子両三箇 無能飽酔す太平の春
石階蒼蒼蘚花重なり  杉松風薫り雨霽れ初む
児童を喚取して村酒を賒い 酔後払却す数行の書
東山に明月出て  楼上正に徘徊す
君を思えども君見えず 琴酒誰が為に携えん
兄弟相逢う処  共に是れ白眉垂る
且つ喜ぶ太平の世 日日酔うて痴の如し
行き行きて田舎に到る  田舎秋水のほとり
寒天晩に向ってはれ 鳥雀は林に翔って飛ぶ
老農ここに帰り来り 我を見る旧知のごとし
童を呼んで濁酒を酌み きびを蒸して更に之を勧む
師淡薄を厭わずば しばしばここに茅茨を訪へと

最後に、良寛らしい句をひとつ。
「道の辺に 菫摘みつつ 鉢の子を 忘れてぞ来し その鉢の子を」

「鉢の子」

道すがら、菫の花を詰むのに夢中になり、托鉢用の鉢を忘れてきてしまった良寛和尚。禅僧ながらそんな失敗をさらりと笑い詠むその親しみやすさに惹かれ、その生き方を追ってみた展示でした。

酒に誘われれば呑み、詩を詠んでと頼まれれば酒がないとできないなんてのたまう・・・。丁寧な暮らしでもなくただありのままに生きてみたら、笑えたりほっとするエピソードがいっぱいできちゃったその人生。そこにやっぱりお酒というものが色々と絡んでいるのもまた素敵でした。呑み過ぎて酒場にスマホ忘れてきても、良寛のようにさらりと詠えるような吞兵衛になりたいものです。