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第三滑走路新設に伴う集団移転地の記録2

空港第2ビル駅から車で10分ほどの場所に一鍬田という地域がある。
千葉県香取郡多古町の西部に位置するこの集落は成田空港の第三滑走路新設のため、大部分が空港用地になることが決まっている。
第三滑走運行に向けて日々移り変わる集落の姿を追っている。

集落の中心に位置する星宮神社の鎮守の森。
木々の奥では開発が進んでいる。

さつま芋畑の撮影をしていると、後ろから声をかけられた。
「おらの家を撮りにこい。40年間野菜だけを売って建てた家だど」
そうひとこと告げて、数本のさつま芋を私に手渡して颯爽と去っていった。
さつま芋を無料で貰ったからには撮影に行かねばならぬということで、
ご自宅に伺うことに。

カブに跨って颯爽と表れた粋なお婆さん

敷地内には年季の入った農機具が並び、高く積まれた農業用のコンテナには
収穫されたばかりのさつま芋が積まれていた。

どこからか聞こえる猫の鳴き声に誘われて裏手に回ってみると、
芋を枕がわりに昼寝する猫の横で、お婆さんがさつま芋の箱詰め作業をしていた。


「おお、きたか。まってろ今日中に300箱出荷せねばならね」
そういって芋の髭を毟るお婆さんの手を見ると、第一関節から指先に向けて折れ曲がり変形していた。

「これか?これはへバーデン、ヘンバーデンだったか外国のお医者さんが見つけた病気なんだ。ここらへんの農家はみんなこんな指だ」

イギリスのウィリアム・へバーデン医師が発見したことから、へバーデン結節と呼ばれている。農家など手作業をするひとは発症しやすく、指が変形し始めた初期の頃は痛みを伴う。

働き者の手で私は好きですよ。そう言うと照れながらも写真を撮らせてくれた。

「おら悔しい。40年野菜だけを売って、ようやく家の借金を返し終わったら家を出ていかなきゃなんね」指の痛みに堪えながら野菜を作り、孫の代まで誇れるように建てた家は、この地域では珍しく下方に反った「むくり屋根」で建てられている。しかしそんな想いのこもったこの家も、成田空港の第三滑走路の新設に伴う移転対象地域になっているため、数年以内に取り壊されてしまう。

むくり屋根で建てられた家

「おらでていかねぞ。納得できるまでこの家にいる。困るのは向こうだ」
成田闘争へと発展した第1回目の移転とは異なり、第3回目である今回の移転では大きな衝突も少なく、淡々と立ち退きへと進んでいる。しかし、それぞれの胸中には様々な葛藤を抱えている。

次回に続く。


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