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「正攻法」が「悪手」になってしまったら、僕たちは一体どうしたらいいのだろう?

外食業界はみなさんが思っている以上に苦しい

多くの方がご承知の通り、コロナの影響で外食産業が大変なことになっています。僕自身、食の世界に身を置く者として、なかなか痺れる状況が続いています。以下の数字を見てください。企業の業績が軒並み壊滅的になっていることがよくわかります。

テイクアウト需要が旺盛だったハンバーガーや牛丼のチェーンをのぞけば、売上高の対前年比が50%程度の企業はざらで、大手居酒屋チェーンの中には6月の前年比が10%前後のところもあります(マイナス10%ではなく、マイナス90%です!)。

業界の中で、常に半歩先の手を打っていたロイヤルホールディングス(ファミリーレストランのロイヤルホストや天丼のてんやなどが傘下)でさえも、苦しい事態に追い込まれています。

ただし、会長の菊地さんは非常に明快に現状を分析しています。同社が一時的に大きな赤字を出すことは間違いないでしょうが、早期の判断と適切な対応によって、赤字幅を抑え込んだという見方のほうが正しい気がします。

インタビュー記事の発言を見ても、自らの過ちを率直に認めるというのは、とても勇気あることだと思います。

「自分たちはリスク分散できているという認識を持っていたということが、まず間違いだった。やはり常になにが起こるか分からない。もう少し違う事業の可能性を考えておくべきだった」

外食では「歯車の逆回転」が始まった

With/Afterコロナの世界では、多くの飲食店はその経営方法を変えざるを得ません。コロナ問題が顕在化してから、飲食店向け予約台帳サービスを提供する株式会社トレタ代表の中村仁さんと色々意見交換をしてきたのですが、僕たちの現時点での見解は、外食産業の世界では今、「歯車の逆回転が起きている」というものです。

注意していただきたいのは、「これまでのやり方が、通用しなくなった」のではないという点です。ひょっとすると「これまでのやり方は、今後やってはいけないものになってしまった」のかもしれないと考えているのです。ベクトルがずれてきたのではなく、ベクトルが一気に反対を向いてしまったとも言えます。

「歯車の逆回転」とは、具体的にはどういうことでしょうか。

【立地】これまではオフィスワーカーや来街者が多数いる「繁華街」であることが、出店立地の第一条件でした。しかし、リモートワークが進み、街に人がいなくなると、繁華街(だったところ)では商売が成り立ちません。今はむしろ昼夜を問わず「住宅地」にこそ人がいるので、飲食店を経営するにしても、そこに近い場所のほうが戦いやすくなってしまいました。

【店づくり】店のあり方も激変しています。店員の活気やお客同士の息遣いが店のシズル感(おいしそうな雰囲気)にとって大切な要素であったため、これまで飲食店の多くはテーブルを小さくし、席間を詰め、ギュウギュウの空間をつくってきました。それはまさに「密」そのものです。言うまでもなく、今はそれを避ける動きが急速に進んでいて、スカスカで間延びしていることこそが、安心感に繋がっています。それはこれまで繁盛店が培ってきた「色気」や「艶」を表現する店づくりとは無縁なものなのです。

【事業規模】ビジネスとしては(特に比較的カジュアルな業態の場合)、ある程度の店舗数を展開することで、ブランドの知名度を上げ、仕入れなどでスケールメリットを生かしていくことは、ひとつの王道でした。しかし、結果的には体が大きくなればその分融通が効かなくなり、突発的な状況変化に適応することが難しくなってしまいます。しばしば恐竜と哺乳類の喩えがされますが、フットワークの軽い事業者による「適者生存」は今後急速に進んでいくでしょう。

いくつか具体例を出しましたが、これらが「歯車の逆回転」の意味するところです。様々な要素が一気に正反対を向いてしまったことで、これまで飲食店にとって「正攻法」だったはずのものは、突如通用しなくなったどころか、場合によっては「悪手」に見えるようになってしまったわけです。

トランスフォームに本気で取り組むしかない

ではこうした環境変化において、すでにビジネスを展開している飲食店、外食企業はこれからどうすべきなのでしょうか。これは本当に悩ましい話ですし、僕にも明快な答えなどあるはずもありません。

一握りの人気店や実力のある店は、今後もきちんと集客できるのは間違いありません。しかしそうではない店(実際にはこちらがほとんどです)にとっては、生き残っていくためには「これまでのやり方」を根本的に変えるしかないのではないかと思います。流行りの言葉で言えば「トランスフォーム」とでも言えるでしょうか。

というのも、もしも従来の方法論が今後のビジネスにとっては「悪手」になってしまったのだとしたら、いくら改善や微調整をしても、俯瞰した際にはそれが悪手であることには変わりがないのですから。

多くの飲食事業者は何とか生き延びようと、様々な取り組みをしています。例えば、これまでやってこなかったテイクアウトやデリバリーに挑戦した店も数多く存在します。しかし冷たい言い方のようですが、多くの場合、それらの取り組みは「労多くして功少なし」だったように見えます。何より、当事者である飲食店自身がそれを痛感していることでしょう。

原因は色々ありますが、持ち帰り弁当や惣菜、そしてピザや寿司の宅配など強い競合がひしめく中食市場に、飲食店が料理だけを切り出して挑んでも、なかなか太刀打ちできなかったというのが大きな要因です。多くの飲食店にとってすぐにできることといえば、接客や場の魅力に頼らず「料理を切り売り」することしかなかったはずですから、そうなるのは仕方ありません。

しかし今後、生き残りのために本気で事業の見直しを検討するならば、新たにテイクアウト商品を開発するというような、飲食店の延長線上にある取り組みは解決には繋がらないはずです。そうではなく、「まったくの新規事業開発」のスタンスで望まなければ、そこには明るい未来は拓けないのではないかと思うのです。

この領域については、僕自身も新しいチャレンジをしていく計画がありますので、その件はまたこちらで書きたいと思っています。

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