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読書の記録 乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』

 確か一番上の引き出しに置いてあったはずのノートがどういうわけか三番目の引き出しから出てきた、とか、こういう誰しも一度は経験したことのある違和感が創作の原点にあったんでしょうか。

 物語の舞台は九州。この世界では、人々が少しだけ違う「並行世界」の間で日常的に揺れ動いていることが実証されています。0番目の世界に生きている僕は朝パンを食べているけど、1番目の世界の僕はご飯を食べている、というような。だから0番目の僕が一番上の引き出しにノートを入れたのに2番目の僕は三段目に入れていたりして、その日常が常に揺れ動いているから「あれ?おかしいな」というちょっとした違和感があるんですが、所詮ちょっとしたことなので何事もないかのように日々は過ぎてゆく。ところが、0番目の自分から遠ければ遠いほど、「そんな自分は知らん!」という自分が思いもよらない行動を起こしていたりする。例えば50番目の僕が殺人を犯していたり!

 っていう世界を生きる高校生の高崎暦が、同級生で普段接点のない瀧川和音に突然「暦!」と声を掛けられる。この和音は85番目の世界からやってきたらしく、そっちの世界では暦と恋人同士なんだとか。とかいう、SFであり、恋愛小説でもあり、青春小説であり、ミステリーの要素もある面白い小説でした。しかも、これ、もう一つの『どの世界の君にも、きっとまた恋をする』とセットになっており、読む順番によって結末が大きく変わるという仕掛けがなされているらしい!いわば、この二作品をどっちから読むか、の並行世界が現実に出来上がってしまうわけです。面白いこと考えますよね。

 東京から京都へ、帰りの新幹線で一気に読み切りました。

 九州が舞台で「虚質科学研究所」とかいう、いかがわしい研究所が出てくるあたりに『ドグラ・マグラ』の影響を感じたりもしたんですが、どうなんでしょう。もう一作の方を読むのが楽しみです。

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