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旅日記 堺東マトリョーシカ

 旅先では、そこでしか味わえないものが食べたい。以前、茅ヶ崎に行ったときにサザンビーチの近くに魁力屋があったんだが、どうしても足を踏み入れることができなかった。これはこれで面白いやろ、というチョけた思いが罪悪感に勝てなかった。旅先でわざわざ京都ででも食えるものを食う、というのは体が拒絶してしまうほど罪なことなのである。

 先日、初めて堺東まで出かけた。
 阪急淡路駅で天下茶屋行きに乗り換え、終点の天下茶屋駅で南海電車に乗って一駅。
 ライブを観に行ったんだが、せっかく滅多に来ない町に来たんだから軽く何か食べたい。ひとまず、ライブ会場の場所を確認したうえで、飲食店を探すつもりだったんだが、駅から数分のところにあるはずのライブハウスに辿り着く前に体感三百軒ほど立ち呑み屋を見つけた。
 商店街の大通りを横に入ると、通り沿いに立ち呑み屋が軒を連ね、さらにその細い道と交差して呑み屋だらけの路地があらわれる。
 その路地と交差してさらに呑み屋が並ぶ小道が・・・これは呑み屋のマトリョーシカではないか。どこかで追いかけるのをやめないと呑み屋の穴から抜け出せなくなってしまう。不思議の町、堺東のアリスになってしまう。

 「虎屋」という、今いちばん景気のよさそうな名前の立ち呑み屋に入る。カウンターでおっさん三人が既にできあがっており、おっさんたちの向かい側、斜め上には小さなテレビ。今季大活躍だった大竹がオリックス打線相手に好投していた。
 お姉さん(ごめん、ほんまはおばあちゃん)が実に愛想よく私たちを捌いてくれる。その捌き方が気持ち良すぎて、この人が総理大臣なら増税も耐えられそうな気がする。
 一品百五十円からくらいのおでんが愛おしく、焼酎も美味い。すっかり長居してしまい、ライブを観に行くことを忘れかける。危ない危ない。「また来てや〜」と微笑むお姉さんに、また会いにいかねばならないと思った。

蠱惑暇
こわくいとま

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#旅日記 #堺東 #立ち呑み屋 #居酒屋

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