見出し画像

人間社会かくあるべし

 先日の日経新聞にキングカズこと三浦知良さんの文章が載っており、細部は忘れたが、「意識しているうちはまだまだ」というようなことが書いてあった。無意識のうちにできるようになって一人前ということであった。例えばチームが勝利に向けて一丸となるため、声かけをする。「チームワークで絶対勝つぞ!」そんなことを言っているうちはまだまだで、口に出さずとも全員が無意識のうちにその気持ちを共有していてこそ強いチームなのである、ということであった。

 身体のなかに入れてしまう、ということなのだろう。これは例えば関根勤さんがいきなり「ねえ、長嶋さん?」と振られても、いついかなる時でも「うーん、いわゆる〜」とマネすることができる、あの域の話なんだろうと思う。
 M-1グランプリのファイナルに進出している芸人さんたちなんかも、面白いな〜と感心する人たちというのは、やっぱり、もはやネタが無意識のところにまで浸透している感じがある。あそこまでいかないとファイナルにまではなかなか進めないのだろう。

 今日は少しばかり人前で話をする仕事があり、その仕事は一ヶ月ほど前から決まっていたことなんだが、決まってから私が何をしたかといえば、YouTubeで芸人さんのトークを聞きまくるということであった。とにかく耳から脳みそに話術を染み込ませるのだ。
 私はイヤホンしながら歩く人が嫌いで、自分では絶対にあれはするまいと思っているので、通勤途中に聞くことはできないから、自宅にいる間、洗濯物を干したり、洗い物を洗っている間、はたまた料理をしているときなどにエンドレスで聞き続けた。実をいうと、これについては今回の仕事が決まる前からずっとやり続けていることなのだが、そのおかげか、今日の人前で話すお仕事は、なかなかいい感じで終えることができた。きっと話術が無意識のところまで染み込んでいたんだろうと思う。

 というのは嘘で、今回のお仕事に関していえば、スタッフの方たちとの打ち合わせ、台本のクオリティ、他の出演される皆さんの力量、優しさ、気遣いその他もろもろ、さまざまな要素が重なったことで私は私の仕事ができた。
 自分だけが目立ってやろうとか、爪痕を残してやるんだ、とか、そういう独りよがりなことを考えてしまうと成り立たない。出演される皆さんが互いにいいところを引き出しあおうとする、そのプロの仕事に私は感激するとともに、仕事に限らず、人間社会というのは、かくあるべきなのではないかと気づいたのだった。今日お仕事をご一緒した方たちは、それらの行いを無意識でやっていた。

#note日記 #日記 #コラム #エッセイ
#蠱惑暇 #こわくいとま

著書『1人目の客』は是非ネットショップ「暇書房」にてお買い求めください。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?