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1人目の客になれた話 金閣寺近く編

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。私が趣味について話している明石家電視台はまだTVerでご覧いただけます。サムネイル画像が明石家さんまさんと私です。こうなると、ただの趣味とはいえ、責任を背負わされているような気がします。身の回りにもこの趣味に理解を示してくださる方が増えました。さきほども私が大好きなある女性の方に「さすが私が見込んだ男やわ」とおっしゃっていただき、心臓が激しくドキドキしました。

 先日、初めて伏見のお店の1人目の客になりました。活動の幅が広がっております。放送ではカットされておりましたが、中川家の剛さんに「是非全国に活動を広げてほしい」と言うていただきました。一足飛びにはいきませぬが、地道にエリアを拡げていけば、やがてどこかでこの活動を見ていた足長おじさんが現れて、いや、足長おねえさんでもよいのですが、私を遠いところに連れていってくれたりして、「津軽海峡手前にオープンしたセブンイレブンの1人目の客は私です」などと書けるようになったりしたら嬉しいですよね。

 今日も京都市内ではありますが、北区に本格中華料理のお店が17時にグランドオープンします。「餃子の王将」という店なんですけど、京都を中心に関西圏ではけっこう有名なお店です。行ったこと、あるという方、多いと思います。今日オープンする王将は西大路通り沿い、わら天神のちょっと北のあたりにあります。私の母校からもほど近い場所ですから、この機会に思い出旅行もしてみたいと思っています。円安と物価高が直撃する日本において、空間的に遠いところへ行きにくいのであれば、私たちには時間的に遠いところ、すなわち思い出を旅行するという手段が残されています。

 私が学生の頃、母校近くには通称「ビートルズ王将」と呼ばれる王将がありました。マスターが無類のビートルズファンで、毎週火曜日だったか、注文する際にビートルズの曲を1曲伝えると餃子一人前が無料になるというアホみたいな店でした。毎週火曜には必ずそのお店へ行き、機械のごとく「In my life」と伝えていました。ちなみに、ビートルズ王将という名前で親しまれていましたが、マスターは無類のプロレス好きでもあり、毎週水曜日だったかは、注文する際、好きなプロレスラーと必殺技を告げれば餃子一人前が無料になりました。毎週水曜には必ずそのお店へ行き、機械のごとく「三沢のエルボー」と伝えていました。

 金閣寺界隈に王将ができるのは、あのビートルズ王将以来のことです。たぶん。
 ビートルズ王将がつぶれてしまったのがいつ頃だったか、もう忘れてしまいましたが、ブランクはけっこうあるはず。
 週に二回、必ずビートルズ王将に通っていたあの頃、私は「ハイツ金閣」というアパートに住んでいて、隣にはおばあちゃんが一人暮らししていました。私はクズな学生で、毎日のように友人や彼女を呼び寄せ、遅くまでどんちゃんどんちゃん騒いでおりました。そんなに分厚い壁でもなかったからうるさかったのは間違いない。それなのにおばあちゃんは、大学卒業と同時に引っ越しをする際、私の部屋までやってきて、「いつも私がうるさくしてご迷惑をおかけしたと思います」と、五千円札をくれたのでした。新渡戸稲造でした。

 待望の王将オープンですから、きっとライバルは多かろうということで、いつもなら40分前
で十分1人目の客になれるのですが、15時30分には店の前に辿り着けるよう、四条烏丸のバス停で母校行きのバスに乗りました。

 安産のご利益のあるわら天神前の停留所で降り、いったん、わら天神で用を足してお店へ向かう。「餃子の王将」のおなじみのマークと駐車場の「P」が書かれた大きな看板の下には誰も並んではいません。駐車場の入口を入ると奥に店の入口があります。
 奥へ向かうと警備員さんに呼び止められ、「17時オープンなんです」とおっしゃるので、「待たせてもらってもいいですか」と伝えると、「いやあ、そやけどまだ早いしねー」と言って、「それならここからぐるっと回ったら店の裏側に出ますさかい、そこで待っててくれはったらよろしいわ」とおっしゃる。
「いや、それなら駐車場の入口のところで待っておきますよ」と伝えると、「いや、それやと通行人の邪魔になるさかい」「え?邪魔にならないように待っておきますよ」「いやいや、それでは私が怒られますさかい、どうか、裏までぐるっと回って・・・」
 そこではたと気づいた私は、「僕、車乗って来てないですよ、歩いてきましたよ!」と伝えると、「なんや、そうかいな、わしはてっきり車やと思っとったさかい、ほな、だいぶ待つけどそこで待っといてください」
 ここに私は、餃子の王将金閣寺店の1人目の客になることを確定させました。

 すぐ後に近所のおじさんがやってきました。
「17時オープンやろ?だいぶ並ぶんや思ってきたけど誰も並んでないやないか」とおっしゃられるのに警備員さんが「いえいえ、あそこに1人目のお客様が・・」と説明され、こちらを向いた近所のおじさんに私はウインクをしてやりました。
 私の後ろにおじさんが並んでしばらくすると、警備員さんが、私に「001」と書かれた整理券を持ってこられたのですが、「ご来店総人数」が「2名様」になっており、「おっちゃん、僕とこのおじさんは別やで!」と伝えたのですが、「まあ、別によろしいやないか」と。まあ、確かに別によろしい気もする。私はこの警備員さんが好きになり、素性を明かすことにしました。

001は1人目の客の証



「このTシャツ見てくださいよ、僕、オープンしたお店の1人目の客になるのを趣味にしてるんですよ」
「いろいろ行ってるんかいな」
「はい。おとといは伏見の居酒屋さんの1人目の客になりました」
「まあ、それもライフやわな」

ライフ!そう、これこそがライフ!

 16時過ぎ。
「あれま!明石家電視台出てはりましたよね!?」ボーダーのシャツのお姉さんが私を見つけて声を掛けてくださいました。
「こないだ、たまたま見てたのよー。面白い人やなーと思ってたら似てる人おるなーって。今日は王将の1人目にならはるの?面白いなー。よかったら写真撮って写真!」というわけで、一緒に撮った写真がこちら。愛しかない。

はじめて声を掛けられた記念❤️愛



「ここは金閣寺も近いし、めちゃくちゃ流行るやろな。バイカルの隣て言うたらわかりやすいし」「僕の子供の頃からこのバイカルありますわ」いつの間にか、警備員さんと私の後ろに並ぶ近所のおじさんも仲良くなっています。警備員さんが昭和26年生まれで、近所のおじさんは昭和22年生まれでした。もう、かれこれ1時間近くになる三人のお付き合い、悪くない。

「あんた有名人なんか?」
「いや、たまたまこないだ明石家電視台っていう明石家さんまさんのテレビに出まして。さっきのお姉さんはそれを見てくれてたんですわ」
 気持ちいい。実に気持ちのいい風が通り過ぎていき、あれこそが薫風だったのだと気づく。

令和6年5月30日17時にオープンした餃子の王将金閣寺店の1人目の客は私です。

近所のおじさんに撮ってもらいました
店員さんに撮ってもらいました

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私が出演した明石家電視台はTVerで見られます❤️

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