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DJ佐藤弘樹さんとの思い出

 百万遍の秋の古本まつり。
 あれはもう5年も前の話になると思います。職場が少し騒ついてまして。何事かと思ったら、「佐藤さんがいない」と。どうやら遠方からDJ佐藤弘樹さんと会う約束で偉い方が来られたのに肝心の佐藤さんがいないので、みんなあわてていたのでした。

 僕は佐藤さんが百万遍の古本まつりに行っているのを知っていたので、「ははー、弘樹さん、約束を忘れたんだな」と、当事者ではないものだから面白くなり、急いで百万遍へ自転車を走らせました。
 
 春はみやこめっせ、ようよう薄くなりゆく生え際。夏は糺の森、弘樹の髪はさらなり、そして秋は百万遍。境内全体に京都市内および他府県の古書店が大集合して玉石混交の古書バトルロイヤルを繰り広げる一大イベント。弘樹さんは中央にでんと構えており、この太々しい御仁が偉い人と会う約束をすっぽかしたことを知ったらどんな顔をするんだろうな、と笑いを堪えながら切迫した表情を作り、その旨を伝えると、「しもた〜」という苦い表情になり、すぐに電話をおかけになられた。心の中で僕は「よっしゃ!」と叫びました。

「ラーメンでも食って帰るか」
 平静を取り戻した弘樹さんは、百万遍の交差点近くにある北海道ラーメンのお店に連れていってくれました。
 ラーメン大盛りに焼き飯のセットだったと思う。おじさん、やらかした割にめっちゃ食べるやん。と思いながら同じセットをご馳走になる。
「北海道ラーメンって書いてある店は、どこも美味しくないけど、ここは美味しいね」とおっしゃる北海道出身のダンディー。
 そこまでかな?と思いつつ、ご馳走してもらってる身としては頷くほかない。
 あんなに旺盛な食欲のおじさんが翌年の夏を迎える前に死んでしまった。

 あれ以来、百万遍の古本まつりに行ったら必ず食べにいく北海道ラーメンの店。そんなに美味しいとも思わないけど、僕にとっては大切なお店なのだ。

蠱惑暇
こわくいとま

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