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無責任な青空

 歌舞伎町の朝はごってりとした厚化粧を洗い落としたような表情で、僕はこっちのほうが好きだと思うけど、それなら別に歌舞伎町じゃなくてもよいのではないかとも思う。
 日高屋のテーブル席を囲みどんちゃん騒ぎをしている若者やホテルから誇らしげに出てくる気だるそうな男女がいる。この街が完全にすっぴんになることはないらしい。

 歌舞伎町はいつも湿っている。今日みたいにカラッと晴れた日もどうにもじめっとしており、これは梅雨のせいではなく男女の間に蠢く欲望がムンムンとしているのではないかと思う。男女の営み発祥の地という石碑が建ててあったらなんら疑問を抱かずに通り過ぎてしまうだろう。朝は夜の延長線上にある。

 昨晩は隠さなければならない箇所だけピンポイントで隠し、その他の部分は全て放り出しているほぼ裸の女三人組が客引きをしているところに出くわした。1ミリの無駄もなく、隠さなければならないところだけしか隠さないその佇まいは合理化の行き着く先のようであった。世の中はもっと「余り」が必要である。無理やり割り切ってしまってはいけない。あの子たちはいま、どんな格好で朝を迎えているのだろう。

 間抜けな青空は阿呆のふりをして昨晩の喧騒乱痴気酒池肉林をなかったかのように振る舞っている。無責任なやつだ。

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