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1人目の客になれた話 壬生森町編

 趣味はオープンしたお店1人目の客になることです。近頃ずいぶん、この趣味について理解していただける人が増えました。

 これもきっと著書『1人目の客』のおかげであろう。なんと累計100冊以上売り上げている大ベストセラーである。
 おかげで先日はエフエムDJによる朗読バラエティーユニット「魔女ラジライブラリー」にもゲスト出演させていただいた。
 確実に私の趣味は認知が広がっているらしい。もっともっと広がるよう、「1人目の客Tシャツ」も新たに作成する予定である。

 さて。
 そんな私の趣味にいち早く理解を示し、以前から新店オープンの情報を私に知らせてくれる友人がいて、数日前、西院に蕎麦屋がオープンすることを教えてくれた。西院は先日、京福西院駅隣の鰻屋や、ラーメン屋の神来の裏にオープンした居酒屋の1人目の客になったばかりである。西院という町全体が今、新陳代謝しているのかもしれない。この「陽」の気を浴びることで私の人生も「陽」に向かっていきそうだ。コロナは「陽性」になりたくないが、本来「陽」というのは明るいものである。そういえば、太陽の大気のいちばん外側の部分も「コロナ」という。もともと「冠」という意味だから「コロナ」そのものは「陽」を帯びた言葉なのだ。ややこしくなってきたからやめる。とにかく西院は今、「陽」である、今、私は西院に「用」がある。

 15時にオープンするそのお店は西院といっても西大路通りにも四条通りにも面していない。以前私が1人目の客になれなかった胡椒餅のお店とこれまた1人目の客になれなかったラーメン屋が並ぶ四条御前あたりは私にとって鬼門であり、この界隈に限っていえば私にとって「陰」の場所なのであるが、この四条御前を少し東へ歩くとカレーのCoCo壱があり、その裏手にひっそりオープンするという。その奥ゆかしさがたまらんではないか。ででんと「1人目の客」と書かれたTシャツを着て京都の町を闊歩する私なんぞとは慎ましさがちがう。こういう店こそ応援したい。

 そういう店だから別にそんなに早く出発せずともよかろうと、13時40分頃からまだ観ていなかった「光る君へ」の録画を観はじめてしまったら、私が大好きだったのに序盤にフェードアウトしてしまった花山院が戻ってきて、しかも危うく弓矢に射たれて死にかけるという衝撃的展開(史実らしいのだが)が待っておったため、興奮して出発が遅れてしまった。
 急いで家を出て、早歩きでCoCo壱の裏へ向かう。あの慎ましやかなお店なら30分前でも誰も並んではいまい。いや、しかし、私のような物好きがいないとも限らんからな。こんなことを気にするくらいならどうして「光る君へ」を途中で止めて出発しなかったのか。終盤に花山院が出てきやがったものだから!

 少し息を切らせながらお店の前へ到着する。30分前である。幸い誰も並んではいない。
 少しわかりにくい入口の前に立ち止まると愛想のいいご主人的お兄さんがお店のなかから出てきてくれた。
「15時オープンですよね、待っててもいいですか?」
「いいですけど、いいんですか?1人目の客って覚えておきますから並ばなくてもオープンまでどこかで時間つぶしといてください」
 私の「1人目の客」Tシャツを見て、こんなことを言ってくれた。奥にいる女性スタッフと微笑み合っていた。これはいい店の1人目の客を確定させられたと思った。

 お店から少し離れたところ、四条通り沿いでこの文章を書いていたらオープンの15時が近づいてきた。入口の見えるところに待機しているのだが、まだ誰もお店の前にはやってこない。やっぱりちょっと立地が慎ましやかすぎるんじゃないのかい。あまり人に知られたくないからそれでもいいけど。

 5分前、どうやらお店へ入っていきそうなおじさんがやってきた。1人目の客を確定させているとはいえ、この人の後ろに並ぶのは気に入らない。早歩きでお店を目指すとやはりそのおじさんは私の後ろにやってきた。
 後ろから店内に声をかけるおじさん。
「あー、もうちょっと待っててねー」と女性の声。知り合いなのだ。知人友人もオープンを待ち兼ねている。それでも私のような見ず知らずの客をちゃんと大切にしてくれる。

 後ろのおじさんいわく、以前は北野天満宮近くにオープンして『あまから手帖』にも大々的に掲載されたにもかかわらずオープン二日目に閉めてしまったとかいうお店らしい。何やら面白そうなお店である。すすめられるがままに樽酒を呑んでしまっている。辛味大根のおろしぶっかけそばが出てくるのが待ち遠しい。

 令和6年5月15日、15時にオープンした立呑処樽酒と蕎麦VIBESの1人目の客は私です。正しい住所は壬生森町らしい。

ご主人的お兄さんに撮ってもらった❤️

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