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笑い話

渡良瀬川を眼下に望む太田の新田神社に登り、親父は一人つぶやいた。
「あっちが憎っくき足利か…うむう、世が世なら俺がこの城で……」・・・って、そんなわけあるか〜い!(笑)・・・突っ込みどころ満載バンカラ親父である。

ナチュラルで天動説を信じていたり、三十になるまで、手も足も爪切りを使ったことがなかったり(ちなみに全部歯でかみちぎっていたらしい)・・・北に見える榛名山を富士山だと言い張ったりして、既成概念の埒外に屹立する、それがわが父TKCなのである。

親父とその荒くれれ兄弟たちの伝説は語り始めると西から昇ったお日様が、ひむがしの野に白々としちゃうほどに、血沸き肉踊り、おまけでヘソがウーロン茶を沸かす如き総天然色日活ロマンポ・・・いや、任侠カツゲキと言えよう。

まあ、一言でいえば野武士とか、バンカラ番長なんかがそのままじじいになったような清々しいほどに頑固+テキトーなオヤジたちの一族なのである。

まあ、書けないことも多い、というか、ほとんど書けないことばかりなのだが、親父たちℕ兄弟は、戦国時代の中心地、G県では知る人ぞ知るケンカ馬鹿揃い。

とくに◯男の◯伯父さんは狂犬の異名で一時は◯瀬界隈では恐れられた気の強さだったそうで、最高記録は◯◯人にたった一人でチェーン片手に襲撃。相手の親分格は仕留めそこなった代わりに数名を病院送りにして無傷で逃走…とか、◯市内を掛けたライバルG兄弟(こいつらもケンカ馬鹿:笑)との◯◯山の決闘とか…とにかく「うおおお!てめえらっ!ケンカ戦国時代じゃ~!!」みたいな青春を謳歌?していたそうな。その頃知り合いじゃなくって本当に良かった。まあ理論上無理なんだけど|д゚)

その勢いで会社勤めもやり切って、そこそこの後輩にも慕われていたのだから、矢島金太郎ほどではないにしろ親分肌というか、面倒見は良かったのだろう。でも、出世という意味では不器用で、決して順調ではなかったようで、悔しさを拳に乗せてよくコンクリートの塀を殴りに行っていたなあ。子ども心に親父の拳は拳だこでごっつごつだったのを覚えている。

そんなわが父と、つい2,3年前、車に乗っていたら、交差点で黒塗りの車が突っ込んで、あわや事故か?ということがあった。
赤信号で飛び出してきた向こうが百パーセント悪い。急ブレーキを踏んだ親父は咄嗟にクラクションを鳴らし窓を開けて「気をつけろコラァ!」と怒鳴った気持ちもわかる。

しかし俺は、突っ込んできた車の曇ガラス越しに、サングラスと短髪のガタイのいい若い衆と、仕立ての良いスーツを着たおっさんが思いっきり威嚇しているのを見逃さなかった。ナンバーも◯◯のもので、ちょっと嫌な予感がした。
「バカたれがあっ」と毒づいて、すぐに発進した親父。だが後ろに張り付いた外車はグイグイと車間をさらに詰めてくる。幅員の狭い、それも地元のバス通りでの出来事である。
出来れば面倒なことに巻き込まれたくないというのは普通の人の感覚だ。もちろん俺もご多分に漏れない。しかし・・・親父の顔を見ると…嫌な予感が当たった。もうすっかり「漢(おとこ)」の貌になっているではないか!本宮ひろし先生の漫画でよく見る、あの顔なのである。(図参照)

バックミラーで後ろの車を凝視しながら一言。
「悪いな、俺今そこのスーパーにクルマ止めっから、あいつら降りてきたら話しつける…舐めた連中になにが道理っていうもんかわからせてやらねえとな…」
『ヲイッ!親父ッ( ;∀;)ナニわけわかんねえこと言ってんだ!?やめろやめろやめろって・・・俺一応武術の師範なんだし、なんかあったら実家の近所で簡単に面が割れるし…って、全然聞いてなくね!?あれ?何ホントにやるの??え??俺これから仕事なんですけど・・・・(心の声)』

うろたえる俺を左手ですっ、と制した親父は、すーっと滑るように広い駐車場にハンドルを切った。そして次の瞬間、耳を疑うような一言が、発せられた。
「つべこべ言って手ぇ出して来たら、お前、やっちまえ。」
「え?……俺が?何で??ひっ、人任せっ💦」
「そりゃあ、俺だって2,3人は大丈夫だろうがよお、ほら、俺もう70超えてるしさ、お前の方が早くて確実だからよ、なっ?」
『な、何が「なっ?」じゃぁああ💢意味わからねえ!やばい。何とか回避する方法はないのか…?(心の声)』

ちらりと親父を見ると、まだタカのような鋭い目で後方を睨み付けている。依然として戦闘モードは解除されていないのだ。まあ、戦闘するのは俺らしいけれども~( ;∀;)

・・・結果からいえば、そのこわもて2人組は何事もなかったかのようにそのまま直進して、俺たちの前(後)から消えたわけなんだが、その場に残された二人はめいめいに心にワダカマリを抱えたまま、無言のドライブを続けたのだった。………お父さん、ほんとにもうやめて下さい。迷惑です。

まあ、親父の家の者といるとこの手の話、少なくないわけだけど、血が熱いっていうのも善し悪しだなぁ・・・こういうところ、似なくてよかったっす。たぶん………(*‘∀‘)

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