ウクライナとロシアの歴史


キエフ公国の誕生

キエフ公国という国があった。ウクライナ語ではキーウだが、歴史的にはキエフと呼ばれているので、ここはキエフで。
キエフ公国を構成していたのは、7~8世紀頃に形成された東スラブ人という民族。
彼らは、今のロシア人とウクライナ人とベラルーシ人の先祖。
ドニエプル川というキエフのど真ん中を通っている川があるんだが、この川を中心として住んでいた人たちである。

伝説レベルの話だが、6世紀後半、三人の兄弟とその妹が、キエフに集落を作り、それが国の始まりだったと言われる。牧畜や養蜂、狩猟などで生計を立てていた。
8世紀頃、イスラム教徒のハザール人と、北欧のバイキングが交易の為にキエフを訪れることによって、中継都市として栄えていく。

バイキングは自分たちのことを『ルーシ』と自称していた。
バイキングと言えば、海の荒くれ者。当然、陸地でもそれなりに強い。
その為、キエフの東スラブ人は、バイキング『ルーシ』に貢ぎ物を捧げるようになる。

だが、東スラブ人たちは仲違いをして、内紛を起こしてしまい、収拾が付かなくなる。
そこで、彼らは『ルーシ』に自分たちを治めて欲しいとお願いすることにした。
その当時のルーシの首長であるリューリグが、ノブゴロド公として東スラブ人たちを治めることとなった。ちなみに、ノブゴロドはキエフより北方にある地名なんだが、後にノブゴロド公国がキエフを攻めて支配下に置くことになり、キエフ公国となった。
そしてまた、このルーシという呼び名は、ロシアの語源となる。

このルーシたちは、東スラブ人よりも人数が少なかった為、自然、婚姻などで東スラブ人に同化していくことになる。
そして、キエフ公国は版図を広げ、ロシアとウクライナとベラルーシの起源となる。
キエフは『ロシアの諸都市の母』と呼ばれてもいる。
10~11世紀頃に全盛期を迎え、ヨーロッパ最大の国にまでなっていた。

ヤロスラフという有名な王様の時代、土着の宗教からキリスト教であるギリシア正教に改宗した。東ローマ帝国で信仰されてきた宗教で、カトリックとはかなり違っている。それが、西ヨーロッパとの文化の差を生み出していくこととなる。
特徴としては、イコンという聖像画を信仰の象徴として使用するところで、儀式の荘厳さや衣装なども、カトリックと大きく異なっている

フレスコ画イコン『復活』


このことによって、国内を宗教でまとめ上げたり、一応は同じキリスト教徒ということで、西ヨーロッパ諸国と婚姻を結ぶことができるようになった。

だが、中世の西ヨーロッパは聖書がラテン語で書かれていることから、ラテン語文化圏なんだが、キエフ公国はキリル文字というものを使っていて、言語的な部分でも、文化を大きく異にしていた。

このことがどう影響するかというと、ロシア・ウクライナ・ベラルーシが西ヨーロッパ諸国と混ざろうとすると、様々な文化的障害が立ち塞がるということだ。


キエフ公国の衰退と、モンゴル軍の来襲

1223年チンギスハンの孫であるバトゥに攻められ、支配下に置かれてしまう。
この出来事は「タタールのくびき」と、屈辱的な意味を込めて呼ばれている。
タタールはモンゴル軍のことで、タルタルソースの語源ともなっている。
モンゴル軍のことを、ギリシア神話に出てくる悪魔『タルタロス』に喩えてそう呼び慣わしたらしい。

ルーシは大打撃を受け、キエフ公国もある意味滅ぼされてしまう。
この当時、キエフの統一権力も弱体化していて、キエフ公の親族が独立してガーリチ・ボルイニ公国というものを作っていた。
さらに、今のモスクワにモスクワ公国というものもできている。
このモスクワ公国は、モンゴルの傘下に入り、逆に勢力を伸ばしていく。
名前から察せられる通り、今のロシアの直接の先祖だ。
ウクライナが、自らの先祖だと思っているのは、ガーリチ・ボルイニ公国。

ここで、キエフ公国の正当な後継は、モスクワ公国なのか、ガーリチ・ボルイニ公国なのかという議論が、ロシアとウクライナで問題になっている。

ガーリチ・ボルイニ公国はキエフ公国が滅亡した後も、一世紀ほど残っていたが、滅びてしまう。


ウクライナ、分割統治の時代

ガーリチ・ボルイニ公国が滅んだ後300年もの間、ウクライナの地は統一して統治する者も現れず、いろんな国の支配下にあったり不安定な状態となった。

この時期にルーシは、ロシアとウクライナとベラルーシという地域ごとに、文化も言語も分化していくことになる。
これは、その三つの国が、丁度、山脈の形で切り分けられているから。
この時期に、ウクライナという地名が初めて出てきたのではないかと言われている。
「分ける」を意味するクライという言葉が関連していて、当時、いろんな国から切り分けて支配されていた彼の地が、やがて引っくるめてウクライナと呼ばれるようになったらしい。
『切り分けられちまった悲しい国さ』って自虐感半端ないネーミングなんだが…💦

ウクライナは周辺国に知れ渡る肥沃な穀倉地帯で、この頃、西からリトアニアとポーランドがやって来る。
14世紀初頭、リトアニア大公が入ってきて、支配を始める。
ポーランドは14世紀半ばにやってきて、支配を始める。
この後、リトアニアとポーランドが、後継者問題によって融合し、ウクライナの西半分を支配する強国となる。

その結果、ウクライナに新しい宗教が入ってくる。
なぜなら、ポーランドはカトリックを信仰する国家だった。
その為、ポーランドに支配されているウクライナ地域では、ローマ法王を尊敬するカトリックっぽいギリシア正教のようなものができあがってくる。
東方典礼カトリック教会というらしい。
東側は未だにモンゴル人に支配されていて、モンゴル人はその地の文化に寛容な統治をしたので、人々はギリシャ正教を信じている。
つまるところ、ウクライナの西と東に、別の文化が醸成されていく。


モスクワ大公国は第三のローマ


やがて、モンゴルは内部分裂で衰退し、ギリシア正教のお膝元であった東ローマ帝国もオスマントルコに滅ぼされる。
ここで、ギリシア正教を信仰しているモスクワ公国が、東ローマ帝国の後継者を名乗って権威付けを行った。
というのも、当時、モスクワ公国は西ヨーロッパからすると東の辺境の地という意識しかなく、それをどうにかして塗り替えたかったという意地があった。
その当時のモスクワ大公国の王であったイヴァン三世は、自分こそが全ルーシの君主であると称して、東スラブ民族全てを統べる存在だと主張することとなる。

元々モスクワというのは、北東にある小さな一都市に過ぎなかったんだが、14世紀初頭から本格的に成長しはじめ、15世紀半ばには飛躍的に存在感を高めていた。その過程で、モスクワ公国からモスクワ大公国と呼ばれるようになる。彼らのルーツであるキエフ一帯に、統一権力がない状態だからこそ主張できたという側面もある。

モスクワが力を付けていった結果、何が起こったかというと、ウクライナが、モンゴルとポーランドに東西に分割されている状態が、モスクワとポーランドに分割される状態に変わっていく。
ウクライナの東半分が、モスクワ大公国に支配されるという流れとなる。

ウクライナは実際どうなっていたのか

東スラブ人が住んでいたわけだが、モンゴル軍の襲来によって、大量に人が死に、荒れ果ててしまった。
そして、日本の戦国時代の初期のような状態になる。武力こそが全ての世界。
そこで台頭してきたのが世に名高いコサック。狩猟民族の強みを活かした、剽悍な騎馬兵士たち。主に、商人のキャラバンなどを襲ったりして生計を立てていたが、じわじわと力を付けていく。
彼らの首領はヘーチマンと呼ばれ、やがて国のようなものを作り、それはヘーチマン国家と呼ばれるようになる。それが16世紀後半頃。

ボフダン・フメリニツキーという首領が登場し、彼がモンゴル人と組んでポーランドに対して反乱を起こして、一瞬独立する。
だが、モンゴル人に裏切られ、ポーランドに対向できなくなってしまった為、モスクワ大公国と手を結ぶことにする。

ボフダン・フメリニツキ


ロシアのウクライナ観を決定づけてしまったペレヤースラウ条約

このときにヘーチマン国家とモスクワ大公国の間で結ばれたペレヤースラウ条約とは、ローマ皇帝の後継を自称するツァーリ(ロシア語で皇帝の意)にコサックが忠誠を誓うというものであった。
このことで、コサック(ウクライナ)はモスクワ大公国(ロシア)の配下だという認識がモスクワ大公国側にできあがってしまう。
一方で、コサック側は、自分たちの自治を守る為に力を貸して貰うという意識であったんだが、結果的にはそうならず、1667年にはポーランドとロシアに分割統治されるという不本意な結末に陥ってしまった。

そして再び、英雄と讃えられる人物が現れる。

イヴァン・マゼーパ

ロシアの中興の祖であるピョートル大帝と信頼関係を築き、ウクライナの自治を確立しようとしたんだが、ピョートル大帝は中央集権国家を目指していた為、利害が一致せず、ある意味いいように使われてしまう結果を招く。
ウクライナ側からすると、コサックの精強さを利用して、消耗品のように戦いに費やされていったように感じられた。死傷率が50%~70%にも上ったというから、偏った見方ではないだろう。
イヴァン・マゼーパは結局ロシアを裏切って、スウェーデンと組んで反乱を起こすんだが、ピョートル大帝には全く勝てずに、モスクワ大公国が圧勝する。そして、この頃からモスクワは自分たちのことをロシアと名乗るようになる。

マゼーパの生涯に感銘を受けたフランツ・リストが作曲した曲


ピョートル一世

この後、このピョートル一世という稀代の名君の功績により、ロシアはさらに大きくなっていくこととなる。


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