見出し画像

北海道徒歩旅・真駒内駅~定山渓温泉

札幌の奥座敷と呼ばれる「定山渓温泉」まで歩いてきた。地下鉄南北線の南側終点「真駒内駅」から約19kmで、アップダウンが激しく、雪が積もっているため、なかなかの難易度であったが、なんとか達成。
定山渓温泉自体は幼少期に家族旅行で行ったのと、大卒後に車で通過しただけで、徒歩による訪問は今回が初である。以前バスで行こうとしたが、その時間帯はやたら混んでいて断念し、石山行きのマイクロバスに変更した経緯がある。その時は万代がある藤野まで歩いた。つまり、藤野以南が(徒歩では)未知の領域として長らく残されていた。
私はこれまで札幌市内の色んな所を歩いてきたが、南区、特に定山渓が手つかずというのは何とも消化不良感満載だったので、今回それを解消できたことで、モヤモヤがなくなったのはよいことであった。いわば未知のヴェールを剥いで札幌の全貌を詳らかにした感じだ。これぞ徒歩ジャーナリスト(過言)。まあ世間ではお互いの「着物」を剥いでキャッキャウフフする方が人気らしいが、それはどうでもいいや。私の管轄外ですからな。
てなわけで、旅というか冒険の記録をここに残します。

地下鉄南北線「真駒内駅」到着、時刻は午前8時。雪がぽつぽつと降っており、前途不安を暗示しているかのようだ。まずは国道453号線を目指して歩く。定山渓に行くには国道230号線に出ないといけないのだが、真駒内駅からは結構遠い。複雑な道路をよく見て、橋を渡らないとならない。結構面倒だが、それでも地下鉄で行ける最南端が真駒内なのだから仕方ない。セイコーマートで食糧を補給。朝ごはんをロクに食べて来なかったので、公園で食べることにした。
徒歩旅の良いところは、立ち止まって景色を眺めるようなゆとりがあることだろう。朝の静かな公園を、老人が歩いている。どこにでもあるありふれた光景だが、高速移動手段ではこうした光景は見られない。
しかし良いところばかりではない。カラスがやってきた。食事中の私にジワジワと近づいてくる。一旦食事はやめだ。何をされるかわかったもんじゃない。車だとカラスをブロックできるから、これは徒歩旅の不利な点だ。今まで何度カラスに食事を邪魔されたことか…。まあよかろう。この程度でうろたえているようでは徒歩旅人の名が廃る。なんぞこれしき。
坂を登り、そして下り、先へ進んでいく。太陽が灰雲に遮られつつも、徐々に、だが確かに昇ってくる。奥座敷に向かう旅としては、こうしたスタートも悪くない。
左手に石山神社が見える。だが右方向を歩いているので、参拝するには横断歩道を渡らなければならない。ここは断念して先へ進もう。

国道230号線に合流。ここまで結構長く、既に1時間程度経過しているが、まだまだ先は長い。体力はまだ充分残されている。さあ、第一関門突破だ。
この辺りは典型的な郊外のファスト風土エリアで、大型店舗が沢山並んでいる。はっきり言って殺風景でつまらないが、これから先山奥に入るので、人の生活感は徐々になくなっていく。今のうちに喧騒を味わっておくとしよう。
石山エリアを過ぎ、藤野に入る。右手にゲームセンターや駄菓子屋、服屋が入った複合施設「万代」が見える。前回の終点である。先を急ぐのでスルーしていくが、帰りに寄ってドリキャスソフトでも探してこよう。行きで買っちゃうと重荷となり、体力を奪ってしまうし。
北門信用金庫を過ぎると峠越え区間に入り、大型店舗は殆どなくなる。この辺りから地名も「簾舞(みすまい)」に変わる。鉄道も走っていないエリアなので移動は基本、完全にバスか自家用車頼み。バスの減便が続く昨今の状況を考えると、なかなか大変そうではある。人口もそこそこ多いので、積み残しなども心配になってくるところだ。
時速40km以上を誇るバスに次々と抜かされつつも、私は時速4kmでひたすら歩みを進めていく。混んでいるバスもあれば、空いているバスもある。豊平峡温泉行のバスが混んでいたが、人気なのだろうか。

長い長い簾舞を過ぎ、豊滝地区に入る。ここから先、定山渓までまともな補給ポイントがないので、徒歩勢の方はここで補給しておこう(←いないと思うが)。
だいぶ疲れてきたが、まだまだ我が両脚は健在。自動車に魂を売り渡した我が同胞たちの脚とは一味違う。もっとも、運動能力が高いわけではない。私の両脚を動かす原動力、それは未知の領域に、自分の足でたどり着きたいという、その情熱だけだ。この情熱が車でいうところのガソリンの役割を果たし、私の脚を先へ先へと進めていく。たとえそれが険しい道であっても。
歩く歩く、ひたすら歩く。だが地名はいつまで経っても「豊滝」のまま。どういうことだ、これは。まさか次元の狭間にでも迷い込んだのか…?
というのは冗談。実はこの辺りから歩道が凸凹になり、足が取られてペースが落ちてしまったのだ。殆ど人が歩かない区間だが、一応除雪はされているし、歩道もきちんと整備してある。しかし不安定な足場はゆっくりと、しかし確実に私から体力と精神力を奪っていった。ただでさえきつい山道、話し相手もおらず、横を高速で車がどんどん追い抜いていく。徒歩旅人に絶望を与える、よくある一場面である。
しかしここで折れてしまうわけにはいかない。歩くしかないのだ。私にはこの二本の脚しかない。これを動かして先に進むより、他に道はないのだ。

そんな私の願いが通じたのか、ついに豊滝は終わり、小金湯(こがねゆ)に入る。次が定山渓なので、最後のチェックポイントであり、いよいよ射程圏内に入ったというべきか。
一応温泉道具を持ってきているので、ここでひとっ風呂浴びるのも手だが、私の心は焦っている。今回の目的は観光ではなく、冒険。これも徒歩旅人の悲しい性か。温泉を通り過ぎてしまう。先へ進むために。
いよいよクライマックスと言いたいところだが、ここから先も長い。足場は一向に良くならない。まだ20kmも歩いていないのに、下半身から黄色信号の伝達が来た。山道&雪道のダブルコンボにより、体力消費量的には30kmほどの距離といっても過言ではない。
ここでトンネルに入る。よし助かった…トンネルの中なら足場は確保されているはず…と思ったのも束の間、私は絶望に襲われることになる。
なんと、除雪された雪がトンネル内の歩道にうず高く積み上がっており、相変わらずのガタガタぶりだったのである。まあそりゃそうかwww
トンネル自体は100m程度なので、すぐに抜ける。トンネルを抜けるとそこも…雪国だった(そりゃそうよ)。
だが、トンネルを抜けたことで定山渓は一段と近づいた気がしてきた。もうすぐこの苦行も終わるだろう。絶望を希望に、最後の力を振り絞り、ザックザックと足場で音楽を響かせながら、ただ一人歩む。最もそんな音楽、隣を走っている車の走行音で消えてしまうがwww

ふたつめのトンネルに入る。ここも歩道はぐしゃぐしゃ。やはり冬に来るべきではなかったのか…?苦しい、辛い、そして虚しい。こんなことをやって何の意味があるというのだろうか。そんな考えさえ頭を過ぎった。
そしてトンネルを抜けるとそこは…
定山渓温泉であった。
来た。ついに来た…!!真駒内から歩いて、ついに奥座敷・定山渓に着いたのだ…。この気持ちはなんだろう、目に見えないエネルギーの流れが、私に降り注ぐかのよう。トンネルを抜けて市街地に入ったことで除雪の精度も上がり、足場は安定する。よっしゃゴールテープを切ったで!
…と言いたいところだが、せっかくだから少し街を歩いてみよう。私はこうした観光地に興味はないが、歩いて来ることは多分もうないだろう。バスを使えば来れるが、徒歩でたどり着いたという達成感、これはもう味わえまい。しっかりと余韻を味わっておこう。
アジア系を中心に外国人観光客が多い。足湯もある。郷土資料館もあるようだ。せっかくだから温泉に入っていくか、と思わないでもなかったが、既に私の体力は相当消耗している。温泉に入る気力もなかった。定山渓車庫前に行き、バスに乗って帰ることにした。
バスは温泉街をぐるっと周り、小金湯方面に…と考えているうちに、バスは既に簾舞地区へ入っていた。
一言いいだろうか。
「バス速すぎワロタwww」
いや、この悪路を、あれほど苦労して渡ってきた私の苦労とはいったい…これが文明の利器ってやつか…やっぱスゲーわwww
近頃はバスが少し遅れたくらいで騒ぐ野蛮人も多いそうだが、その程度でガタガタ騒ぐなと言いたい。だったら歩いてみ?多少遅れても歩くよりか速いんだからウダウダ言うな。
…まあいい。文句はこのくらいにしておこう。バスはどんどん先へ進む。速い速い、とにかく速い。あっという間に藤野地区へ入る。ここで降りて万代へ寄ろう。ドリキャスが私を呼んでいる…(←ホントかい?)。

万代藤野店に到着。まずは中古ゲームコーナーへ向かう。色々あるが、果たしてドリキャスはいかに。
数は少ないが、サクラ大戦2~4が500円で売っている。安い…これは安い…!
だが、今はまだその時ではない…。いずれ遊びたい作品ではあるが、今はまだいいや。ここでキープするのもありだが、今は少し疲れている。疲れているときの判断は往々にして誤りやすいものだ。ここはウィンドウ・ショッピングで済ませることにしよう。見ているだけでも楽しい。日曜なので家族連れも沢山いた。よもや私が定山渓まで歩いてきた人だとは思うまい。
さて、来た道を戻る。だが帰路は別ルートで行く、川沿方面に行き、南区唯一のブックオフへ向かう。こちらも客が多い。ドリキャスはこちらも寂しめのラインナップ。どこかにドリキャス専門店ありませんかねぇ…(切実)。
まあそれは良いとして、さらに北上を続け、南30条まで到達。先日大通からここ南30条まで歩いたので、これで札幌~定山渓の道が徒歩で完成したことになる。奥座敷の攻略で札幌の全貌がほぼ明らかになった。札幌は広い。特に南区。これまで未知の領域が多かったが、これで親しみやすくなった。
さて、この後はせっかくなのでコーチャンフォーミュンヘン大橋店に寄っていく。大型書店で、岩波文庫をたくさん取り扱っている…のだが黄色が少ないかな。ちょっと残念。
そろそろ岩波文庫専門店に行きたいなあ、と思った次第である。
その後は地下鉄澄川駅に乗り、すすきの駅で下車し、狸小路をちらっと歩いて帰宅。年末なのでややミーハー色が強くなってはいるが、元々札幌は人がうじゃうじゃいるので、ぶっちゃけあんまり変わらない気もする。そういう意味では意外と年末年始札幌行くのもありかもしれん、と思った。もっとも、なるべく人混みは避けるけれども。

はい、それでは総評。
定山渓まで行っておいて温泉のひとつも入らずに帰宅とは、一体あなたは何のために出かけたのですか?と言われそうだ。確かにそれは一理ある。
だが、これも類型的な話ではあるのだが、RPGでよくある、宝探しの地図を頼りに宝箱を見つけたが、その箱には何も入っていなかった、あるいは財宝を見つけたのだが、その冒険者は財宝を惜しげもなく他人に譲った…という話。ここで問われるのは、彼らは何を得たのか?ということ。
まあ旅好きの方なら言うまでもないだろう。彼らにとっての宝とは、宝を探すために、未知の世界を冒険できたこと、そしてその冒険を通じて仲間に巡り会い、または絆を深めたこと、これこそが何よりの宝なのだ、と。
今回の私の旅には同行者はおらず、新しい出会いがあったわけではないが、今まで自動車でしか行ったことがない場所に、自分の脚でたどり着けたという自信、雄大な山を眺めながら、足場の悪い山道を苦しくとも諦めずに歩きぬいた自信、これこそが今回の旅における私の「宝」なのではないか。そう私には思えるのだ。これはバスで行っても味わえないし、仮に「ヒコーキ」「シンカンセン」が定山渓にあったとして、それを使ったとしても決して得られないものだろう。
たとえ筋力がなくとも、高い運動能力がなくとも、自分の脚でたどり着き、自分の眼で観る、それこそが私の「旅」なのだから…
(完)

いいなと思ったら応援しよう!

荒野の旅人
興味を持った方はサポートお願いします! いただいたサポートは記事作成・発見のために 使わせていただきます!