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第3部 南西部への旅 [20] New Mexico を旅する

20-4 幻想のホワイトサンドへ 

「White Sands National Monument」に到着する。
『鷹』を「Park Entrance 」のゲートに乗り入れ、$2.00を投函し入園する。
 公園内道路の両側に見渡す限り「白砂漠」が広がっている。「白砂漠」は、幻想的という言葉で語りつくせない不思議で異様な光景を見せている。
 淡いクリーム色が美しいハワイ砂浜の白さと異なり、ホワイトサンズの砂漠は無機質で柔らかな白亜色に輝いている。光を吸収するのか。色彩を感じさせない。

「白砂漠の世界」のパンフレットを開く......「ホワイトサンズ国定記念物は、チワワン砂漠の北端のアンドレス山脈の麓トゥラローサ盆地にある。面積は275平方マイル。『白砂漠』は、数百万年前のペルム紀の海が残した『石膏の砂』が創り上げた」と記されている。
(712㎡㎞ は奄美大島と同サイズか。八丈島約10個分の広さか。凄い......そうか、白墨のチョークの粉の白さと同じなのか)
 公園内を巡る観光道路「Dune Life Nature Trail」は片道8マイルのループ道路になっている。最初の3マイルは舗装道路だが、残りは砂を固めた「砂道」だ。流雲は、雲の上を走るような浮遊感に包まれながら全長16マイルを走る。

「白砂漠」にはピクニックエリアやトレイルやボードウォークが整備されている。観光客は砂丘のソリ遊びを楽しんでいる。
 白砂丘を歩きながらファインダーを覗く。抜けるような碧空が強烈な輝きを放っている。
 微風が吹く。白砂丘に風紋の縞模様が幾重に折り重なり、雲海のような光景を描き出していく。砂が風に吹かれ小雪が舞うような砂霞が幻想的な光景を創り出す。流雲は、シャッターを押し続ける。
 太陽が傾く。白世界の最深部まで歩くと、青白く光り輝く景色は、無限大に広がる雪山のような清涼感を彷彿とさせる。

 白砂丘の中、流雲は脳が混乱する。「雪」ではないと納得させる。モノクロームの世界に遠近感や時間軸が狂わされ、刻々と変化する風紋に方向感覚を惑わされた。

「このままではホワイトアウトの中で立ち往生してしまう」と緊張と恐怖に襲われた。
 風が砂丘を移動させたのか、方向感覚を失った。慌てて、カメラをジップロックに収めて、帰路を探す。ホーリーを促し足跡を確認しながら、ビジターセンターに向かって歩く。
 Adobe 建築のプエブロ・リバイバル様式のビジターセンターを見付けた時は、ホッと胸を撫で下ろした。ビジターセンター内にポスターが貼ってあった。
「暑い時期に砂丘で道に迷い、方向感覚を失い遭難死する危険がある」と警告してあった。

 ビジターセンターで白砂漠のキャンプを予約する。キャンプ場は火気厳禁だがファイヤー・ピッチがある。
 ホーリーが......「Ryu, let's have a BBQ tonight. Let's grill some chicken and have a glass of wine while watching the white desert in the moonlight. Sounds fun......ワインを飲みながら、月光の砂漠景色を......」
「Ok, it can get cold in the desert.」
「Don't worry. It's supposed to be about Fahrenheit 44 degrees tonight. 」
(7°C前後か。それならキャンプできるな)

「Dunes Drive」を走り「Yucca Picnic」エリアに到着する。
 キャンプ場は綺麗に整地されている。12番の設営場所が指定されており、20分程でテントの設営が完了する。周りには数十個のテントが、適度な距離を開けて設置されていた。
 ファイヤー・ピッチに ”Mangrove Charcoal” の練炭を入れ火を起こす。直ぐに着火し10分程で料理が可能になる。
 ホーリーは炭火の上で調理する。焼き上がった焼き鳥を持って、テント脇のデッキチェアに腰掛ける。ワインを飲みながら、砂漠の夕暮れ風景で食事を楽しむ。白砂丘の刻一刻と変化する風景は、流雲の想像を超える砂漠の造形美を見せる。
 未知の風景『砂の惑星 DUNE』を彷彿とさせる。目の前の光景が地球の風景だと納得させるのにこれ程の時間を掛けた記憶がない。

「ゴールデンアワー 」に流れるソフトな光を捕え、撮影準備に入る。太陽は、白砂丘の西空に大きく傾いたまま中々沈まない。輝く夕陽に向かい数息観で呼吸を整え撮影を続ける。
 砂丘の風紋にフォーカスし望遠レンズの「圧縮効果」で撮影する。遠景の被写体をグッと手前に引き寄せる「遠近の圧縮」の臨場感を演出する。遠景と近景が織りなす遠近感の不思議な光景の切り取りに挑戦する。時がゆっくりと流れる。
 肉眼では感知できないゴールデンアワーに現れた色彩変化に戸惑いながらも、テクスチャを際立たせてくれる臨場感。色彩変化見極めるように撮影する。
 地平線に差し込むゴールデンアワーの光が、砂紋を美しく、神々しく浮かび上がらせる。
 陽の傾きと共に、白砂漠がピンクから紫へと刻々と変化する。

 太陽が地平線の下に消える僅かな刻に、大空が淡いピンク、赤からオレンジ


に変化する。萌えるようなオレンジ色に大空が染まると、遠方に見える白砂漠は農紫色に、手前の風紋がピンク色に染まる。一面が薄紫色に覆われ包まれる。
 光が織りなすグラデュレーション。こんな光景は流雲も初めて見た。
「ゴールデンアワー」に訪れた瞬間を心に深く刻むようにシャッターを押す。
(この光景は一生忘れないだろう........)

 日没直後。大空が青白く輝くと、一瞬にして暗闇に包まれる。驚いたのは、太陽が沈んだ後のマジックアワー。白砂丘が魔法を掛けられたように、刻一刻と変化していく。
 微かに漏れる夕闇光が反射すると「光と影」に踊るように砂丘が流れ、平坦な砂丘風景が立体的に変化する。燃えるような金色からクールなインクブルーへと全く異なる色彩世界が訪れる。
 地平線にインクブルーの夕闇が沈むと、風が吹き抜け砂の踊る音がサッーと耳を打つ。白砂漠に微かに砂音が響く他は何も聞こえない。
 満月の夜に白砂丘を歩く、幻想的なイベントがある。白砂漠の空は驚くほど空気が澄んでいる。夜空に瞬く光のひとつ、ひとつが輝きを増し、星が濃くなり夜空を埋め尽くす。
 今宵は「有明の月」。逆三日月の下、白砂丘を歩くのも中々幻想的だ。 

「Milky Way Galaxy」が上空に浮かぶ。白光の帯は雲のように流れ、無数の星が地平線から天空を覆いつくす。満天の星が砂丘の果てから果てまで埋め尽くす。闇の中、弱光の星の瞬きさえくっきりと見える。天然のプラネタリウムが広がっている。
 天空のグレーにエメラルド色に輝く銀河が流れ、白砂丘に反射し瞬く。地球が天の川銀河の一部とは想像すらできない。

 白砂丘が暗闇に包まれた時、瞬く星々が360度の夜空を覆いつくす。星空が地球の有限さを実感させる。
 流雲が宇宙に居る自分を実感した時、ホーリーは「Ryu, Did you know they were selected by International Dark Sky Sanctuary?」                  「Oh yea, I’m not surprised...... 驚かないよ。天空に輝く星々を.....」
 今、宇宙を眺め宇宙と一体化する場所に居る。「人間が宇宙を意識し自覚する」大切さを祖父が説いていたのを思い起こした。
 祖父は「毎日短い時間で良いから座禅すること。心を平やかに鎮めるひと時を持つゆとりが真我の境地に近づく方法」と流雲を諭していた。
 この宇宙を宇宙たらしめる「真我」の存在を実感する。正にUni-Verse。宇宙は一つ、宇宙の中で生かされている地球人なのだろう。

 頭上に輝き見える星々は、地球から何万光年何百万光年離れていても、全て天の川銀河の星たちだ。天の銀河の向こう側にも銀河があり、星が存在するらしい。だが誰も見ることは出来ない。宇宙飛行士は地球をひとつの星と認識できるらしいが。地上から天空の星を眺めている自分は、地球人だと納得させる必要があるのだろう。

 強烈な光を放ちながら流れる星。空からこぼれ落ちる星。
(神々しく見える。本当に、こぼれるように星が流れるのか......)
「Ryu, stars are flaming out and many are streaming. They must be comets.....あれは彗星なのね」
「Holly, They are not " comets " but " meteors "......あれは”彗星”でなく”流星”だよ..... A comet is a celestial body made of ice and dry ice that melts as it approaches the sun, emitting light as it flows...... "彗星"は氷やドライアイスの塊りの小天体で、太陽に近づいた時に氷が融け発光しながら流れる現象だよ...... A meteor is a phenomenon that occurs when cosmic dust plunges into the Earth's atmosphere at high speed...... "流星"は 宇宙塵が地球の大気に高速で突入する時に発光する」
「Really? But I still think the stars are burning up......でも、私は星が燃えつきているとおもうわ...... That's mysterious. I wonder how stars can burn out......不思議ね。星が燃え尽きるなんて.......」
 これだけの流星群が見られるのは白砂漠だからだろう。「流星」は上空100kmの大気で起きている。神秘的な現象なのは間違いない。
 流雲は白砂漠に入った時、カメラを砂粒から守るためにジップロックに収納した。
 砂漠に寝ころぶとジップロックからカメラを取り出し、三脚の下に潜り込む。カメラを構え、一等星を画面中央に置きピント合わせる。露光時間を8~13秒にセットし連写でひたすらシャッターを切り続けた。これで流星が流れる姿が撮れているだろう。 
 水が流れた跡のような模様を描く流星。漆黒の星空に響く微かな音。ホワイトサンズの星空ショーは、Aspen の天体ショーを凌ぐ、幻想感に包まれた。

 ガリレオ・ガリレイの天の川銀河の発見から、宇宙の謎の解明が始まったが、宇宙は未だに神秘の謎に覆われている。
 宇宙の生命は、恒星周辺環境の「Habitable Zone」に誕生するとされている。太陽系の水星と火星の間にあるハピタル・ゾーンに関して科学者は、恒星に近ければは蒸発し、遠すぎればは凍結する。最低条件として恒星から適度の距離に位置し、液体の水に適した温度が生命誕生の可能性と定義している。この位置に『Habitable Planets/地球』がある。
 天の川銀河に約100億個の「Habitable Planets」が存在すると推定されている。知的生命体は存在するのだろう。地球から数万光年以上も離れた何処かに.......。

 白砂漠のサンライズは、ゆっくりと訪れた。
 水平線に黄金色の光が射すと、東の空が一気に黄金色に染まる。白砂丘の空に太陽が顔を出すと、黄金色に輝きながら暁色に染まった。
 穏やかなサンライズが白砂漠に昇る。朝陽を受け琥珀色に輝いている。


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