【小説】目が覚めたら夢の中 最終話 成人の夜
成人の夜(最終話)
私は本日成人の儀を迎え、成人した。
成人の祝いを兼ねて、今、私はカミュスヤーナと一緒にお酒を楽しんでいる。
私は度数の少ない甘みの強い果実酒を、更に炭酸水で割ったもの。
カミュスヤーナは強めの蒸留酒に、氷を浮かべて飲んでいた。
「カミュス。婚姻の証って素材は何を使われたのですか?」
私は胸元に下げていた婚姻の証を引き出して、触りながら尋ねる。
ちなみに、婚姻の証は婚姻式で、お互いが相手の為に用意をし、交換をする品のこと。私たちの婚姻の儀は既に終わっていた。元領主のものということで、かなり大規模になった。あわせて、アルスカインの領主就任式も行われたものだから、領外から人が来て、私たちはかなり忙しかった。それらもようやく落ち着いて、私たちは自分たちの時間が持てるようになっている。
「それは私が常に持っていたお守りを加工し直した。何か気になることでも?」
カミュスヤーナの問いかけに応えるように、私は婚姻の証についている宝石に魔力を流す。
宝石が光り、それを中心にはらはらと白い羽根が現れては消えていく。
その現象を初めて見たのだろう。カミュスヤーナは驚いたように目を見開いた。
「それは・・。」
「これは守護石ですね。私が贈ったものも、父親からもらったお守りを加工したのです。今まで私を守ってくれましたので、今度はカミュスを守ってくださるようにと。」
私の言葉を受けて、カミュスヤーナも自分の胸元から婚姻の証を引き出して、宝石に魔力を流した。私のものと同じように光り、白い羽根が現れては消える。
「ずっと持っていたのに知らなかった。」
「守護石は天仕しか持っていませんから。」
私の言葉に、カミュスヤーナは手をこめかみに当てる。
「それはどういう意味だ。」
「私、ずっと不思議に思っていたのです。カミュスは魔人の血が流れているから’奪う’ことが可能なのはわかりますが、なぜ’与える’ことができたのだろうかと。」
以前にも話した通り、天仕は『与うるもの』。自分が持つ能力、魔力、血などを、自分の意志で他者に与えることができる。それと対するように魔人は『奪うもの』。魔人は他者の持つ能力、魔力、血などを奪うことができる存在。
「私の病を治してくださった時、カミュスは魔力を与えてくださいました。魔人の血を引いているだけでは無理です。」
「・・なぜ私が何かを与えたことを知っている?」
まず、それを聞きますか。そうですか。
私がカミュスヤーナの顔をじっと見つめると、カミュスヤーナの顔が私の視線を受けて、うっすらと赤くなった。
「夢の中で貴方が話してくれたのもそうですが、思い出しました。」
「いつ、思い出した?」
「私の記憶が戻った時です。」
「・・。」
そう考えると、私たち口づけの回数多くない?必要に迫られた上だけど。
カミュスヤーナは私の言葉を受けて、軽く頭を振っている。
「カミュスは、自分の両親の事を知りたくはありませんか?」
「・・私の義両親は、領主様と領主夫人だ。」
「ですが。。」
「いい。過去の事を振り返っても、今が変わるわけでもない。」
「私は、もう少しカミュスには自分のことを大切にしてほしいのです。自分の生まれのことを気にされていましたので、分かったら、少しは気が楽になるのかと。」
「それは・・もう大丈夫だ。」
「?」
「私には私の存在を肯定してくれる君がいる。君を守るために、私は自分を犠牲にしない。」
「カミュス。」
「私たちは永遠に共にいる。婚姻の儀でもそう誓っただろう?」
「・・ええ、そうですね。」
カミュスヤーナは、酒が入ったグラスを卓に置くと、その場に立ち上がる。そして、私に向かって両腕を開いた。
「おいで。テラ。」
「・・。」
私は、カミュスヤーナの腕の中に入って、その胸に自分の耳を押し当てた。彼の熱を薄い服の生地越しに感じる。そして、速い鼓動も。自分の鼓動の速さと負けず劣らずだったので、彼も緊張しているのだと思った。彼の腕が私の背に回り、軽く力が籠められる。
「カミュス。身体がとても熱いですね。もう酔っていらっしゃいますか?」
「残念ながら、私は、酒には酔えない。でも君になら酔えると思う。」
耳元で囁かれる声が心臓に悪い。
「今夜は私を酔わせてほしい。」
「・・私はもう酔っています。」
私は小声で答える。
カミュスが私の顔を覗き込む。彼の赤い瞳に自分の心内が見透かされるような気持ちがして、でも、その美しい瞳から視線が離せなくて、逡巡していると、カミュスの表情が柔らかく崩れた。
「フフッ。確かにもう身体が熱いな。では、この熱を私に分けてほしい。」
「お手柔らかにお願いします。」
「・・無理はさせないと誓おう。」
私たちは顔を見合わせて微笑んだ。
おわり
長いお話でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
関連短編を書いています。気になる方はこの後ご覧ください。
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