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【短編】永遠の親友 No.1

こちらは高校生の時に書いた小説です。表現が今書くものとは少し違っています。あまりリメイクしてないです。
クリスマス短編なので季節外れですが、このところ暑いので少しは涼しさをお届けできるかと思います。全5話くらいを予定。
また、連載小説の主人公、カミュスヤーナが出てきます。人物設定は全く異なります。

永遠の親友 No.1

「クリス。クリス。遊ぼう。」
自分を呼ぶ声がして、クリス、クリストファーは皿洗いをする手を止めた。
「ファー?ちょっと待ってて、母さんから皿洗い頼まれちゃって。」
「皿洗い?」
勝手口から入ったのか、ファー、ファートリアンが台所に姿を現す。黒い髪に深緑色の瞳を持つ少年は、クリスの姿を見ると、大変そうだね。と呟いた。

「水、冷たいだろう?手伝おうか。」
「大丈夫。すぐ終わらせるから。いつものところで待ってて。」
金色の髪と青い瞳を持つクリスは、ファーを見て、そう答えた。
「うん、分かった。早く来いよ。」
彼は大きく頷いて、台所から出て行った。
さぁ、急がないと。
クリスは友達を待たせないようにと、皿を洗う手を速めた。

辺り一面は雪景色だった。

針葉樹林の森に囲まれたここスティーニンの村は、毎年多くの雪が降る。冬には他の街とは隔絶かくぜつされた状態になる。だから村の人々は冬になる前に食料を確保したり、家屋の修理をしたりと忙しい。クリスの父親は他の街で冬の間働き、春に帰ってくる。この村の父親はみなそうである。だから、クリスマスは母親、祖父母、友達とパーティーを開くこととなる。

「ファー、ファーどこ?」
クリスは寒さに体を震わせながら、声を張り上げる。火の時の緑の週(12月中旬)、この村では厚手のコートを着ていても寒さは消えない。
どこにいるんだろう?
かじかむ手をこすりながら、彼は歩く。ブーツが膝近くまで雪に埋まってしまうので、歩くだけで一苦労だ。

「ファー、ファーってばぁ。」
いくら呼び掛けても彼の答えはない。
「ファーっ!」
何度目かの呼び声にようやく彼が答える声がした。突然奥からざあっと水の流れる音がした。
あっちだ。
クリスはペースを速めて、水の音の方へ歩いていく。

「クリス、早くおいで!」
クリスは、ファーの姿を大きなもみの木の枝の上に見止めた
「ファー。捜したんだよ。」
「ごめん。道つけてくるのを忘れてた。」
ファーは笑みを浮かべて言う。

「クリス、今日は何して遊ぼうか?」
ファーは高いところにある枝の上から飛び降りると、クリスの近くにふわっと着地する。
「そうだなぁ。」
クリスは頭の中にしたいことをあれこれと浮かべたが、ふっと空を見上げるとこう言った。

「空を飛ぼう。」
普通の人であれば、この子は何を言っているんだろう。とか、子どもだから夢と現実が区別できないのかしら。とか、まぁクリスの言っていることの意味が分からないに違いないが、ファーには理解できたのか、分かった。と呟いた。

「今日は晴れているから、楽しそうだね。」
ファーはゆっくりと片手を上げた。クリスは自分の体が軽くなったように思った。思っただけでなく、実際に彼は地面から浮いていたのだ。隣のファーの体も地面から1メートルほどのところで、ふわふわと浮いていた。ファーはクリスに片手を差し出した。
「さぁ、行くよ。」

クリスはファーの手を取る。
「うわっ!」
目の前に青い空が広がった。クリスたちの体が突然もみの木を超えるくらいの高さに飛んだのである。
「ファー、突然飛ばないでよ。驚くじゃないか。」
そんなクリスの言葉に、ファーはくすくすと笑っているだけである。クリスはすねたように、ファーから顔を逸らし、眼下に広がる世界を見た。

青い空、針葉樹林に囲まれたスティーニンの村、雪が日の光に当たって輝いている。遠くには父のいるハプスブルクの街も見える。
鳥はいつもこんな美しい景色を見ているのだろうか。
「おい、クリス。あそこに何かあるよ。」
ファーの言葉に、クリスは彼の指差したところを見つめる。

「ほんとだ。」
「降りてみるか。」
ファーが呟くと、二人はゆっくりとその場に降り立つ。
「人・・みたいだな。」
上からは雪の中に染みのように見えたものは、黒い服を着た人の姿だった。

「ファー、助けないと。」
「僕たちが?」
何で?とでも言うような口調でファーが言う。
「ファー、ほっといたらこの人死んじゃうだろう。僕たちの村に運ぶんだよ。」
「死・・ああそうか。」
ファーはようやく納得したというように頷いた。それでも顔から不満の色が消えていない。クリスはファーの顔をじっと見つめる。

ファーはいっつもこうだ。
クリスは深くため息をつく。時々他の人達を物であるかのように見つめることがある。口調にも強くそれが現れるので、他の人にもよく思われていない。クリスはそんなところもひっくるめて彼が好きなのだが。
「じゃあ、運びましょうか。」
ファーは倒れている人の体に手を添えると、軽々と持ち上げる。相手はファーよりはるかに大きいが、彼は特に負担に思ってはいないらしい。しかし、クリスは村に帰るまで、ファーの愚痴ぐちを聞き続ける羽目におちいったのである。

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