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【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第17話 黒飛竜の鱗1

第17話 黒飛竜の鱗1

黒飛竜の鱗
飛竜はただでさえ個体数が少ないが、黒飛竜となるとさらに少ないとされている。そして、気性も荒い。棋獣としては使われていないだろう。制御するのには、相当の魔力を要するだろうから、魔王でもないと扱えぬ。

第13話 薬の素材

魔人の住む地は、大陸中央に巨大な山脈がそびえている。黒飛竜くろひりゅうが住んでいるのはその山脈とされる。

この山脈はどの魔王が治める地にも属さない。そのため、昔から多くの魔物が生息している地となっている。どこかの魔王が手を出そうとすると、他の魔王がくみしてそれを阻止する地となっている。

ただ、この山脈の環境は厳しく、魔人まじんが住める環境にはない。そして、この山脈からは何の鉱物も産出されない。この山脈を治めるは何もなかった。その為、魔人の気質の強い気まぐれな魔王達の興味は惹かずに済んでいる。

今回の「黒飛竜のうろこ」の捜索には、テラスティーネもカミュスヤーナについてきた。ジリンダには、魔王ミルカトープに目を付けられる恐れがあるから連れていけなかったのだ。

「それにしても寒いな。」

山脈は一面岩だらけだ。植物などもない。雪は積もっていないが、標高が高いためか、風が強く、とても寒い。
カミュスヤーナは外套がいとうをきつく身体に巻き付けた。

「大丈夫か。テラスティーネ。」
「はい。問題ありません。」

テラスティーネが表情を変えることなく答える。

「もし、黒飛竜を見かけたら知らせよ。」
御意ぎょい。」

カミュスヤーナは迷いなく、まるで黒飛竜の居場所を知っているかのように歩みを進める。その後ろを腰に吊るした細剣レイピアに手をかけた状態のテラスティーネが続く。

カミュスヤーナは魔力感知まりょくかんちを周辺にかけており、強い魔力がある方向に足を進めているだけである。この地には魔人がいない。その為、この地で強い魔力を発する物といえば、黒飛竜しかありえない。この山脈の内、最も高い山のすそのに、黒飛竜がいるであろうことが、カミュスヤーナには分かっていた。

「この辺りにいると思われるのだが。」

カミュスヤーナは、より魔力を消費して周囲にかけている魔力感知の性能を上げる。その時、背後で、魔力がうねるのを感じた。

「テラスティーネ。後ろだ。」

カミュスヤーナはテラスティーネに声をかけると同時に、右のてのひらを背後にかざした。掌の前で火花が散る。

「何者だ。」
「それはこちらの台詞セリフだ。」

そう言って、カミュスヤーナとテラスティーネの目の前に現れたのは、黒髪に黒い瞳を持つ男女だった。

「ここには魔人はいないはずだが?」
「それより、ここには何用か?」

男の方が、カミュスヤーナの問いには答えず、別途問いを投げかける。男女ともに簡易よろいを身に着け、顔立ちが似ていることから、親子か兄妹か近しい血筋の者たちであることが伺われた。

「私の名はカミュスヤーナ。ここには黒飛竜を探しにきた。」
「なぜ、黒飛竜を?棋獣きじゅうにでもするつもりか?通常の魔人では扱えないが・・。」

男女がこちらに向ける視線は鋭いが、話を聞かずに攻撃を仕掛けてくることはないらしい。

「だが、そなたの魔力量なら、大丈夫そうだな。魔王?だろうか?」
「こちらの魔力量が見てわかるのか?」
「そなたたちほど保有魔力量が多ければ、さすがに分かる。」
「・・私は状態異常回復の薬を作る必要がある。そのためには黒飛竜の鱗が必要だ。」

男はカミュスヤーナとテラスティーネを無言のまま眺めた。

「我らの集落に来るがいい。そこで詳しく話を聞こう。」
「私は黒飛竜の居場所が分かればそれでいい。知っているなら教えてほしい。」
「・・知ってはいるが、教えるには交換条件がある。」
「交換条件?」

カミュスヤーナはその赤い瞳をまたたかせる。ここに魔人がいることからして想定外だ。しかも彼らの集落があるという。彼らはどの魔王にも属していないのだろう。もしかしたら、自分たちが存在することに対し、口封くちふうじをしたいのかもしれない。

口封じするなら殺すのが一番早いが、先ほど彼らはこちらの魔力量が多いことを口にしている。簡単にはほふれないのは理解しているだろう。よほどおろかな者でない限り、こちらに手出しはできないはずだ。

「いかがなさいますか。カミュスヤーナ様。」

テラスティーネが手元の細剣の柄に置いた手に力をめる。

「手出しするな。テラスティーネ。こちらに何かあったわけではないのだから。」

カミュスヤーナが、彼女の青い瞳を見つめながらさとすと、テラスティーネは柄から手を放して、体勢を起こした。

「いいだろう。交換条件も含め、集落におもむこう。」
「では、ついてこい。」

男は黒い瞳をきらめかせた後、カミュスヤーナたちに背を向けて歩き出す。女が無言でこちらの様子を伺いつつ歩み寄り、歩くようにカミュスヤーナたちをうながした。

第18話に続く

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