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【小説】目が覚めたら夢の中 第9話:使者/談笑

使者

あれは、3日前のこと。
領政を弟であるアルスカインに任せる準備と、テラスティーネの身体を取り戻す算段を考えていたところ、悪寒を感じた。顔を上げると、そこに一人の少女が立っていた。

背中を覆うプラチナブロンドの髪。白く細い手足。ラベンダー色のイブニングドレスを身にまとい、伏せられた長いまつ毛の下から赤い瞳がこちらを見上げた。
髪の色、瞳の色は違えど、その容姿は見覚えのあるもの。

「テラスティーネ・・。」
「魔王エンダーン様配下、アメリアと申します。以後お見知りおきを。」
胸に手を当て、軽く上体をかがめて執事の礼をとったアメリアは、カミュスヤーナの青い瞳を見て、化粧をしていなくとも赤くあでやかな唇の端をあげた。

「あら、貴方はそちらに逃れたのですね。あのまま、とらわれていたら主にかわいがっていただけたでしょうに。もったいないこと。」
少女はそのままカミュスヤーナの方に歩み寄る。
「まぁ、エンダーン様は彼女の魂はあってもなくてもよかったようですけど。魂があったほうが貴方様を傷つけることができたのにと残念がっておられました。」
少女はカミュスヤーナの方に身をかがめる。お互いの鼻先が近づき、赤と青の目が向かい合う。

「貴方様の目の前で、彼女の身体と魂を壊したら、さぞや楽しかったでしょうと。でも、そしたらこの身は造られなかったかもしませんが。」
唇が触れそうに近く。テラスティーネと同じ容姿だが、その色と表情は違う。彼女には似つかわしくない表情。
「きさま・・っ。」
「まぁ怖い。視線で射殺されてしまいそうですわ。」
少女はくすくすと笑う。その後、アメリアの雰囲気ががらりと変わる。

「美しい瞳だな。カミュスヤーナ。」
少女の口より、別の口調・声音で言葉が発せられる。
「ただ見ているつもりだったのだが、思わず声が出てしまった。ああ、心配することはない。そなたがいるわけでもないのに抱いても仕方がないからね。この身体には手は付けていないよ。」
「貴様は、私の色だけでは飽き足らず、テラスティーネの身体まで奪うなど。何を考えているのだ。」
カミュスヤーナは、にらみつけたまま、少女に問いかける。
「もちろん。そなたと遊びたいだけさ。」
目の前の少女が口の端をあげて、にやりと笑う。

「まさか、色を奪った時点で取り返しに来ないとは思わなかったよ。だったら、奪った色、そして彼女の身体で自動人形でも造ったら、楽しいかなと思ったのさ。」
そなたもさすがに取り返そうと思ってくれるだろうし。この身体も美しいしね。と彼女は言葉を続けた。
「こうやって、視力や身体を借りることもできるし。」
「主にかわいがっていただければ本望ですわ。」
また声音が変わる。まったく、うっとうしい。

「要件はそれだけか。」
「そうさ。」
少女はカミュスヤーナの耳元に口を寄せた。
「そなたが来るのを待っているよ。」
ささやいた後、少女の唇がカミュスヤーナの耳たぶをはさんだ。
「!」
耳を抑えて、振り向いた時には少女の姿はかき消えていた。

談笑

玉座の上で、金の髪、金の瞳の青年が、ひじ掛けについていた手を頬に当てて笑った。
その後ろに控えるプラチナブロンドの髪、赤い瞳の少女が、そのまろい頬をぷくっと膨らませて主に抗議する。

「エンダーン様。私もう少し彼の方とお話ししたかったです。」
「アメリア。彼は私のものだから、図に載ってはいけないよ。しかし、色を奪っても彼の瞳は美しかった。青い瞳というのもいいものだね。ただ彼女が側にいるのは気にくわないが。」
エンダーンの口の端が上がる。
「やはり魂ごと手に入れて、かわいがりたいものだ。」

この色とこの色を奪ったときには抵抗されてしまったからな。と、エンダーンはアメリアの目元に手をやり、髪をすく。
「この身体であれば、いつでも好きにしていただいて構いませんのに。」
彼の方のお気に入りですよ?とアメリアは頬に手を当てて首をかしげる。

「その身体は好ましいが、彼ほどの興味はない。」
だが、彼の前で、彼女の魂をも奪うのはいい考えだね。とエンダーンはアメリアの頬をするっと撫でる。アメリアがその頬をうっすらと赤らめた。赤い瞳がキラキラと輝いている。

「ああ、エンダーン様。」
「きっと彼は深く傷つくだろう。その痛みはとても甘美だ。」
エンダーンは金色の瞳を細めて笑んだ。

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