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【小説】目が覚めたら夢の中 第26話:第四夜

第四夜

このところ会うたびにカミュスの顔色が悪くなっているように感じる。
私がカミュスに覆いかぶさって、顔をジロジロと見ていると、カミュスは居心地悪そうに身じろぎした。
「そんなに見られるといたたまれないのだが。。」
カミュスの頬がほんのり赤くなる。私の目から逃げるように顔をそむけた。

私たち二人は寝台の上にいる。
カミュスのあまりの顔色の悪さに、私が寝て身体を休めるよう強く言ったからだ。
寝台に横にはなったものの、カミュスは眠れず、身体を起こそうとするので、私がカミュスの上に覆いかぶさって起きられないようにしている。
ちなみに、私は12歳くらいに身体が成長している。でも記憶は戻らないままだ。

「重くないよね?」
「重くはないが・・。」
カミュスの顔がさらに赤くなる。なんで?熱があったりする?
「顔が赤いけど、熱があるのかしら?」
「いや、顔や身体が近くて・・つらい。」
カミュスは顔をそむけたまま、ぼそぼそと言い募る。
カミュスに言われて、私は改めて二人の位置関係を見直してみる。

カミュスが寝台に仰向けになっていて、私はカミュスの顔の横に手をつき、身体の横に膝をついて覆いかぶさっている状態だ。私の上には薄い掛物が載っているので、カミュスの身体は見えない。それに、ずっと四つん這いになっているのは、体力的に無理だったので、カミュスのお腹の上くらいに座ってしまっているけど。

もしかしなくても、かなり近いかも。客観的に今の状態を認識して、じわじわと顔に熱が集まってくる。
私はカミュスから身を離そうとしたところ、長時間同じ体制をしていた弊害か、手が突っ張れなくなって力が抜けた。

「ひゃん!」
顔と顔がぶつかりそうになったところを、カミュスの左手が私の肩を、右手が私の口元を、下から持ち上げるように押さえた。
「大丈夫か?」
「・・・・。」
なんか面白くない。

下から見上げるカミュスの赤い瞳を見て、口を押さえられた状態の私は目を細めて笑って見せる。カミュスは私の笑みを見て、顔をこわばらせた。何か察したのだろう。するどい。
私は、口を押さえている掌の中央を舌でペロリと舐めた。

「んんっ~~!」
カミュスが顔を赤くして、わたわたと慌て始める。でも手を外すと私の身体を落としてしまうからなのか、律儀に私の身体は支え続けたままだ。カミュスの反応が面白くて、私は舐めるのを続けてみた。

「もぉ・・かんべんしてくれ・・。」
カミュスの顔は、これ以上ないほど赤くなっている。赤い瞳もうるんでいるように見える。
やりすぎたかな。

掌をなめるのをやめ、身体を支えているカミュスの腕を軽くたたくと、カミュスは私の身体を自分の身体の上にそっと下ろした。私の顔がカミュスの胸にうずまるような体制だ。カミュスの早い鼓動が聞こえる。

「はぁ・・君は性格が以前と変わってないか。そんなにいたずら好きではなかったと思うが。」
「以前のことはまだわからないけれど、今の私が素なのかも。・・ねぇ、カミュス。」
「なんだ?」
「カミュスは私のことが好きなのでしょう?」

「何を言って・・」
「私はまだあなたと会って、そんなにたってないけど、従兄妹で幼馴染のような関係だけでここまでのことはしてくれないと思う。」
そして、あなたは私を本当に優しいまなざしで見つめるのだ。

「私はカミュスのことが好きだよ。これが恋愛感情なのかはわからないけど。ほら、私、今は小さくなっているし、カミュスは大人だから、今の私にこんなこと言われても困ってしまうかもしれないけど。」
「・・・。」
「ごめんね。記憶がないから、以前の私が貴方を好きだったのかどうかはわからない。でも、幼いころから一緒にいて、命も助けてもらったあなたのことは大切に思っていたと思うよ。」
「テラスティーネ。。」

「私はカミュスとテラの仲を応援するよ。」
「・・なんだそれは?君はテラ本人なのに、自分のことを応援するなんて。」
頭の上で、カミュスが苦笑しているのを感じる。
「ん~。記憶がないからなのか、私がテラなのか、よくわからなくなってしまうんだよね。でも、いつも優しくしてくれるカミュスのことが好きなのはたしか。だから、カミュスがテラのことを好きなら、応援するよってこと。」
「ふふっ。それは頼もしいな。」

「だから、自分のことは大切にして。そんな顔色じゃ心配になっちゃうよ。」
私の背中にカミュスの腕がまわる。
「そして、ずっとテラの側にいてくれないかな。」
「私は・・。」
カミュスの心音と体温を感じる。何が彼を押しとどめているかはわからない。でも私はカミュスが好きだから、カミュスの側にいたい。それだけ。

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