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【小説】目が覚めたら夢の中 第15話:強奪1

強奪1

調合の手を止めて、私は自分の目をこすった。
ここは私が薬の調合をするのに使っている工房だ。
ここ数月の間に起きた出来事を思い返す。

このエステンダッシュ領では疫病が流行っている。
養い親である領主夫妻、父親である摂政役はともに疫病にかかり亡くなった。
私は急遽領主になった。次期領主である義弟のアルスカインが成人するまでに、領政を立て直さなくてはならない。
並行して疫病に対抗する薬を作らなくてはならない。

私、そしてアルスカインや私が庇護している少女はまだ感染してないようだが、それも時間の問題だ。
自分を実験体にしてみているのだが、どうも私はこの疫病に感染、発症しにくい体質であるらしい。この理由が判明すれば、薬の開発に流用できるのではないかと思われるのだが。
私は、一旦休憩しようと扉の方に身体を向けた。

最初に捕らえたのは、強い光を得た金色の瞳。
鏡を見ているようだった。
私はプラチナブロンドの髪に赤い瞳。対面するのは金の髪に金色の瞳。
色は違うのに、その容姿は驚くほど似か寄っている。まるで分身のような。
「初めまして。カミュスヤーナ。私の半身。」
紡ぎだされる言葉にのる声もうり二つ。

「半身・・?」
「そなたは何もしらないのだね。」
青年は私の前にある椅子に腰を下ろした。
「カミュスヤーナ。私と来るのだ。」
青年は私の方に手を伸ばしてくる。
「突然現れ、半身だの、来いだの、一体何なのだ。」
今までに会ったことのない人物なのに、自分と全く同じ容姿をもつ彼に、自分の警戒心がなかなかわいてこない。これは危険だ。

「私はエンダーン。そなたの双子の兄だ。」
「!」
まったく同じ容姿が彼の言葉を裏付けている。
「そなたの肉親は私のみ。私だけがそなたの家族だ。」

「私には養父様も養母様も、弟もいる。それに父上だって。」
「弟以外はいなくなったではないか。そなたがいう父上だという男も血は繋がっていない。」
彼の言葉に、私はやはりと思う。自分は、摂政役の父とは、まったく似ていなかったから。そして、疫病で養父、養母、父は亡くなった。青年の言葉は正しい。

「そなたはこちらに戻るべきなのだ。」
彼は私と同じ顔で口の端を上げてほほ笑む。いや、にやりと笑う。
「ここにいてもそなたは傷つくばかりであろう。そなたはここにいるものとは違う。異分子なのだ。」
そなたは魔人なのだから。青年は楽しげに言葉を続けた。

「魔人。。」
人間にしては豊富な魔力量。時々湧き上がってくる破壊衝動。人間ではないと言われれば腑に落ちた。
「あの時に逃げていなければ、私と一つになれたのに、離れたままでいるから苦しいのだ。思っていたより美しく成長しているから、食らおうとは思わないが、私の側には連れ帰る。」

目の前の青年は、私に説明を始めた。

私は魔王の元に産まれた双子の子どもだった。魔人の間では双子は禁忌の子。魔力量の多さと魔人としての強さが比例する世界では、一人がもつ魔力量を2つに分けてしまい、子一人一人が持つ魔力量が少なくなってしまうからだ。

私は産まれた時に双子の兄に捕食される運命だった。2つに分けた魔力量を一つにするために。
産んでくれた私の母はその運命を嘆き、人間の住む世界に逃がした。
母は父に私を逃がしたことの責任を取らされ、殺された。

父はその後私を探そうとはしなかった。思った以上に兄の魔力量が豊富で、私を食らわなくても魔人として十分な強さを誇れたからだ。
兄は魔人としての力をつけ、魔王である父を屠り、魔王となった。

ただ、魔王になっても日々退屈だった。美しいものが好きで、魔人や人間もさらってきては人形にして自分の周りに侍らせたりもしてみたが、反応が従順すぎてしばらくすると飽きた。
そして思い出したのが、自分の元から逃げ出した双子の弟だった。
今更食って自分の力として取り込もうとは思わないが、このつまらない日々を払拭してくれるかもしれぬ。

そして彼は今私の目の前にいるのだ。

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