【短編】告白
今日こそ、告白する。
そう、決めてきたはずだった。
バイトが終わり、正社員の人が店内の明かりを消し、裏口の鍵を閉める。
皆、自転車に乗って、店の前で別れる。
いつもの、「暗いから気をつけて帰ってね。」の言葉掛けと共に。
俺は自分の学生寮に戻るように見せかけて、彼女が走らせる自転車の後を追いかけた。
夜中のせいか、彼女はかなり速い勢いで自転車を漕いでいる。
追いかけるのも一苦労だ。信号待ちしているところで何とか捕まえて、声を掛けた。
「前嶋さん!」
「あれ、富岡さん?どうしました?」
彼女は息を切らしている俺を見て、不思議そうに問いかけた。
「話があるんだけど。」
「なんですか?」
「ちょっと、待って。息整えるから。前嶋さん、帰るの早いね。」
「もう、夜だし、この辺りは暗いので。スピード出してました。」
彼女は、淡々と答えを返した。でも、ちゃんと自転車から降りて、自分が話し出すのを待っている。
こんなはずではなかったんだが。
「俺は、君が好きなんだ。」
そう告白すると、彼女は驚いたように口を開いた。
「君が良ければ、付き合ってほしい。」
「ごめんなさい。」
彼女は自分に向かって、頭を下げた。
「私は、富岡さんを、そういうふうに見たことはないです。」
「誰か好きな人がいるとか?」
「いいえ。付き合っている人もいません。」
「それでも?」
「それでも、です。」
スッパリと振られてしまった。彼女を見ると、何故か泣きそうな顔をしていた。
「なぜ、そんな顔してるの?」
「え?」
彼女は、顔をゴシゴシと擦った。
「困らせてしまった?」
「すみません。どんな顔してました?」
「泣きそうな。。ごめん。そんな顔をさせたいわけではなかったんだ。」
「富岡さんは、バイトでも優しく教えてくれましたし。一緒にいて、楽しいって思います。でも、恋愛対象には。。」
「分かったよ。バイトでは、今まで通り、接してくれないかな。変に距離を置かれるのは嫌だから。」
彼女は、俺の顔を見つめた。
「いいんですか?」
俺が頷くと、彼女は少し顔を緩めた。ほのかに笑みを浮かべる。
「よかったぁ。」
そんな顔をされたら、諦められなくなるよ。
俺はそう思いながらも、彼女を安心させるかのように、呼応して笑ってみせた。
終
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