見出し画像

【短編小説】好きな人と結婚したら、幸せになれると思ってました。

食べたいと思っていた高級果物店のパフェを前にして、私は大きく息をついた。向かい合って同じようにパフェを食べていた美奈の手が止まる。

「どうしたの?」
「ねぇ。美奈は今幸せ?」

私の質問に、彼女はキョトンとした顔をした。

「なに?突然。」
「私はさぁ、好きな人と結婚したら、幸せになれると思ってたんだよね。」

美奈は、私の言葉を聞きながら、またパフェに長いスプーンを突き刺した。

礼羽あやはは、今、幸せだと感じてないの?旦那さんのことは、結婚前、結構のろけられたと思うんだけど。」
「嫌いになったわけじゃないんだけど、何となく思っていたのとは違うなぁというか。」

「それは旦那さんに不満があるの?それとも、結婚生活に?」
「不満はないよ。」
「物足りないとか?」
「どうなんだろ?」

久しぶりに会った友人は、私の質問を笑い飛ばしたりせずに、難しい顔をしながら、一緒に考えてくれた。

「私から見れば、礼羽はとても幸せそうに見えるけどね。」
「仕事も続けさせてくれるし、家事もそれなりに分担してるし、休みの日は一緒に過ごしてることが多いかな。」
「まぁ、好きな人と結婚して、漏れなく幸せになれるんなら、皆、もっと結婚していると思うけどね。」

結婚したい相手が現れないというのもあるけど、結婚するなら、将来のこととかお金のこととか、いくつか考えなくてはならない事項が出てくる。そんなのすっ飛ばして勢いで結婚して、それでも続く場合と別れてしまう場合もある。結婚してから、結婚ってよく分からないなと思うこともある。

「好きな人と結婚しても、幸せになれるとは限らないってこと?」
「人によっても、幸せと思う状況は、人それぞれだしね。・・礼羽が幸せだと思っていないように、旦那さんも幸せだと思っていないかもしれないし、逆に今の状況に満足しているかもしれないし。」
「・・まぁ、そうなのかもね。」

私は、旦那のことを頭の中に思い浮かべる。彼は今日、家で一人の時間を満喫しているはずだ。いつも優しい彼は、私と結婚したことを後悔はしていないだろうか?

「何なら、幸せだと思えないなら、結婚辞めちゃえば?」
「離婚するってこと?」
「礼羽なら、離婚しても、普通に生活できるでしょう?仕事もしてるし。もし、旦那さんに非がある離婚なら、慰謝料とかも請求できる。子どもはいないから養育費とかは無理だけど。割と簡単にできるんじゃない?」

結婚する前は、一人暮らししていた経験もある。今も正社員なので、自分の生活費程度は稼げている。もちろん引っ越さなきゃいけないし、生活の質は落ちるけど、その分自由になる時間は増えるだろう。正直、彼が浮気をしたり、ギャンブルやアルコールに嵌ったり、暴力を振るったりは、今のところないから、慰謝料は見込めないけど。

でも、そうしたところで、私は幸せだと思えるんだろうか?

「さっきも言ったけど、別に不満があるわけじゃないから、離婚する必要性は感じないんだけど。それに、離婚したところで、幸せになるわけでもないでしょう?」
「じゃあ、旦那さんに同じことを聞いてみたら?私と結婚して幸せ?って。」

美奈に言われ、私は頭の中で、その状況をシミュレーションしてみる。
もし、幸せだと思ってないと言われたら、離婚するパターンでは?先ほど、美奈に伝えたように、私は別に幸せが実感できないだけで、離婚したいわけではない。

「うーん。やめとく。」
「そう?残念。」
「面白がってるでしょ?」
「そんなことないよ。でも、離婚したら、逆に無くなった今の結婚生活を思い返して、やっぱり私幸せだったんだな。と実感できるかも、と思っただけ。」

なくなったら、その大切さが実感できる。
その考え方は、自分でも、『確かに』と思ってしまった。
別に今の生活に不満もなくて、これを続けたいと思っているのなら、私はやはり、幸せなのかもしれなかった。

「・・贅沢な悩みだなと思って。」

私が美奈の顔を見つめると、彼女は私の視線を受けとめて、笑った。

「好きな人と結婚して、別れたいとは思ってなくて、でも、幸せとは思えないなんて、贅沢。」
「・・最初の質問に戻るけど、美奈は今幸せ?」

結局、私のことばかり話をして、彼女の話を全然聞いていない。彼女も退屈しているのかもしれない。そう思って、改めて質問してみたけど、彼女は微笑むだけで、その質問に答えてはくれなかった。

結婚されている皆々様、貴方は今幸せですか?

サポートしてくださると、創作を続けるモチベーションとなります。また、他の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。