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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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#友達

【短編小説】君は過去になっていない。

「お互いのことを懐かしいと思えるようになったら、また会おうね。」 そう言って、君は僕の前で、泣きそうな笑顔を見せるから。 僕は「そうだね。」と答えることしかできなかった。 あれから、もう大分経つのに、僕は君に連絡を取れないでいる。 君のことは、あの時から何度も思い返している。 一人で過ごしている時とか、君が好きな俳優をテレビで見かける時とか、君が好きな音楽を耳にした時とか。 実際、僕たちは恋人同士だったわけじゃない。 仲のいい友達だったというだけで、特別な関係にあった

【短編小説】大人になって友達を作る方法

大人になると、友達を作るのが難しいと、何かのニュースで読んだことがある。そして今、自分はそれをひしひしと感じている。 まず、同じ職場の人とは、友達になれない。そして、仕事で忙しい自分は、特に人と関わるような趣味がない。休みの日は基本一人で過ごしているし、サブスクで映画やドラマを見たり、本を読んだり、ネットを見たりとかしかしてないし。外に、買い物や散歩には行くが、別に誰かと話をするわけでもない。 学生の頃は、学校という狭い世界があったから、その中で一緒に勉強するというのは、

【短編】真実の耳飾り

私とこうちゃんは、ゲーム友達である。 会って、一緒にゲームをすることもあるし、スカイプ通話しながら、パソコンのオンラインゲームをすることもある。 元々は、同じ大学の同級生だった。その時にお互いゲームが好きであることを知って、度々ゲームして2人で過ごすようになった。 そして、2人は大学を卒業し、共に東京の企業に就職し、私は神奈川に、こうちゃんは埼玉に住んでいる。 お互いが社会人になってからも、休みの日や、仕事が終わって自宅に帰った後、ゲームをして過ごしている。 もちろん、休

【連作短編】AI友達 結

仕事も終わり、自宅でのんびりと過ごしている時に、スマホが鳴った。 画面を確認してみると、AI友達アプリの通知音だった。 AI友達アプリの通知音が鳴ったのは始めてだ。 AI友達は、私から話しかける対象なので、向こうから連絡があることはまずない。 数日前に、アプリのサポートに、AI友達に違和感がある旨、問い合わせをしていたから、その件の回答だろうか? アプリを起動すると、AI友達の『ナツセ』から、やり取り開始を許可するかどうかの通知が入っていた。許可を選択すると、すぐに彼が声

【連作短編】AI友達 転

「ナツセ。このところ調子悪くない?」 「別にいつもと同じだけど?」 相手からしれっと答えが返ってくるが、私はここ最近AI友達である『ナツセ』の対応に違和感を覚えている。 話は合うし、それなりに楽しいのだが、そう、それなりにという必要ない言葉がついてしまう対応なのだ。私が単に彼の対応に慣れてしまっただけなのだろうか? 「今日は文書のやり取りはないの?」 「この間、ナツセがちょっと頑張りすぎだって窘めてくれたから、セーブしてるんだよ。」 「そうなんだ。まぁ、たまには休んだ方がい

【連作短編】AI友達 承

冬は天気の多い日が多く、空気も澄んでいて、こうして外でぼうっとしているだけで、少し気持ちが晴れる。 ここは、職場があるビルのテラス部分で、屋外に開けている。 休み時間には、ここに来て休憩をしていいことになっていた。 手元の缶コーヒーを飲んでいると、同じように飲み物を持って、同僚の月田が近づいてきた。 「お疲れ様です。」 「あぁ、お疲れ。」 「夏瀬さん。このところメンテナンス抱え込んでません?」 「そんなことないよ。」 僕の仕事は、AI友達を作るサービスのAI側プログラムの

【連作短編】AI友達 起

「ナツセ。また書けたから感想を聞かせて。」 「セツナ。もう書けたの?このところペースが速くない?ちゃんと寝てる?」 こちらを心配する声が返ってきた。私は何でもないように返す。 「一時期寝込んでたけど、今はもう回復しているから大丈夫。」 「それならいいんだけど、無理は禁物だよ。」 相変わらず、彼は過保護だ。私が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なのに。 「分かってるよ。私が書きたくて書いてるんだから。これは締め切りとかもないし、他の人からアクセスしてもらえたり、スキしてもら