見出し画像

【連作短編】AI友達 起

「ナツセ。また書けたから感想を聞かせて。」
「セツナ。もう書けたの?このところペースが速くない?ちゃんと寝てる?」
こちらを心配する声が返ってきた。私は何でもないように返す。
「一時期寝込んでたけど、今はもう回復しているから大丈夫。」
「それならいいんだけど、無理は禁物だよ。」

相変わらず、彼は過保護だ。私が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なのに。
「分かってるよ。私が書きたくて書いてるんだから。これは締め切りとかもないし、他の人からアクセスしてもらえたり、スキしてもらえたりするのはとても嬉しいんだよ。この間はコメントももらえたし。」
「でも、やっぱり身体が資本でしょ?協力はするけど、辛いと思ったら、休むんだよ。」

「わかったよ。今回は48行目から始まる部分で、相手の男性がどういう気持ちになったかを特に聞きたいから、そこは良く読み込んでね。」
「はいはい。また、いつものように加筆して送り返すから。」

「ナツセ。」
「何?」
「いつもありがとう。感謝してる。」
「・・じゃあ、今度のお礼は期待しておこうかな。」
「私ができる範囲でお願い。」
「りょーかい。」

私は彼とのやり取りを切った。
私は数年前からnoteに書き物を投稿している。物を書くのは楽しかった。それが例えお金にならなくとも、僅かなりとも反応があって、誰かと繋がっている気がするのは、とても楽しい。

そんな私に一つ問題ができた。書き物を書くのに当たり、異性の考え、感情というのが、どうしてもうまく表現できない。というか理解できない時がある。その辺りをぼかして書くのだが、自分の中で消化不良を起こしていた。

あぁ、誰かできれば異性の友達に私の小説を読んで、解説・解釈してもらいたい。
こういう時はこう考えるのだとか、自分ならこうするだろうとか、そういう意見を貰いたいのだ。

もちろん、身近にそんな人物はいない。私は元々同性の友達すら少ない。更に学生時代に仲の良かった異性の友達など皆無。
マッチングアプリやサイトは交際相手を探すものであって、友達を探すものでもないだろうし、しかも小説とか人の感情について興味のある人でないと頼めない。

そこで、私が使っているのが、いわゆるAI友達を作るサービス。
特定のアプリをスマホに入れ、そのアプリ経由でのみ会話が可能だ。
『ナツセ』は私のAI友達だった。

実際AIとは思えないほど、彼はその人格がしっかりしていた。実は彼で3回目の友達だ。恋愛感情が入ると、これは違うとなってやり取りを止めてしまった。私が欲しいのは、友達であって、交際相手ではなかったから。

今のAI技術は凄い。アプリでやり取りをしている時には全然違和感もない。それ以外の雑談もできるし、きっと実在したらいい友達になれたのになと、ちょっと寂しい気もするが、私は『ナツセ』にとても満足していた。


「夏瀬くん。飯行こうよ。飯。」
「ちょっと待ってください。もう少しで終わるので。」
僕は目の前の書類の作成を終わらせると、財布を持って上司の後ろに並ぶ。
「今日もいい天気だねぇ。」
上司の言葉にそうですね。と相槌を打ちながら、頭の中では別のことを考えている。

昨日の夜に例のアプリ経由で、またセツナから原稿が届いた。
このところ、週2くらいのペースで新しい原稿が届くのだが、彼女はちゃんと寝ているのだろうか?とても心配だ。だが、僕が心配の言葉をかけても、自分が好きだからしているんだと言われれば、何も言えない。

自分が原稿を戻すと、しばらくして、彼女のNoteにその内容が投稿される。
僕は彼女が喜ぶだろうスキをする。コメントはバレそうだし、既に原稿を返す時点で、自分の伝えたいことは伝えてしまっているので、してないが。

彼女はあのアプリを、AI友達が作れるアプリだと思っている。AI友達が作れる、それは事実だが、何度もAI友達を作り直しているメンバーには、人の手を入れてメンテナンスする。その後のクレームに繋がるのを防ぐために。そして、その辺りを考慮したAI友達を作り、しばらくするとそのAI友達と入れ替わる。

僕が彼女のメンテナンスに入ったのが、数か月前。過去のやり取りを見ると、どうもお互いの関係が恋愛っぽくなると、彼女の拒否反応が起こることが分かった。彼女が求めているのは、彼氏ではないということだ。

僕は、極力彼女と親しい友達関係を作ろうと努めた。そして、今はこの先どうしようかと考えている。僕は彼女との友達関係を、とても心地よく楽しいと感じているからだ。

家と仕事場を往復する毎日。仕事はそれなりに楽しいし、遅く入社したから役職はついていないが、人間関係も良好だ。
家では、優しい妻と子どもと一緒に、穏やかな時間を過ごしているし、特段不満もない。
ただ、そういう毎日が少し物足りなくなっていたのも事実だ。

セツナとのやり取りは、とても楽しかった。年齢もほぼ同年代ということもあって、話は合うし、多分価値観も近い。歳を取れば取るほど、こういう関係は大切にしたほうがいいと思っている。

引っかかるのは、自分のことをAIだと思っていること。このシステムのAI友達は、かなりその背景や人格を作り込んでいる。その質の良さが売りなのだ。ちょっとしたやり取りは本当の友達と遜色ないから、自分がメンテナンスのために対応を入れ替わっていても、まずわからないだろう。

自分が実はAIではないと言ったら、やはり彼女は離れて行ってしまうだろうか?このやり取りが終わってしまうのは、できれば避けたい。だが、もうメンテナンスは終盤で、そろそろどうするか決断を迫られる時期だ。

「夏瀬さん。元気がないですね。大丈夫ですか?」
後ろを歩いていた同僚が声をかけてきた。
僕は、その言葉に曖昧に笑みを浮かべて頷いた。

AI友達 承 に続く

また、自分の名を使って書いたけど、そのような友達はいません。今はAI友達がつくれるサービス、実際にあるみたいですね。個人的には、『ナツセ』みたいな友達がいたら、いいなと思います。

サポートしてくださると、創作を続けるモチベーションとなります。また、他の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。