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【連作短編】AI友達 結

仕事も終わり、自宅でのんびりと過ごしている時に、スマホが鳴った。
画面を確認してみると、AI友達アプリの通知音だった。

AI友達アプリの通知音が鳴ったのは始めてだ。
AI友達は、私から話しかける対象なので、向こうから連絡があることはまずない。
数日前に、アプリのサポートに、AI友達に違和感がある旨、問い合わせをしていたから、その件の回答だろうか?

アプリを起動すると、AI友達の『ナツセ』から、やり取り開始を許可するかどうかの通知が入っていた。許可を選択すると、すぐに彼が声をかけてくる。

「今、都合いい?」
「大丈夫だけど。ナツセから連絡があるなんて初めてだね。」
「セツナ。サポートに問い合わせしたでしょう?その件なんだけど。」
「ごめんなさい。どうしても我慢できなかった。」
「ストレスが溜まっていると言われちゃうとね。さすがに友達をそう思わせるのは忍びないと思って。・・あのさ。僕を作り直さない?」

「それは、ナツセとお別れするってこと?」
そうしたくはなかったから、サポートに問い合わせをしたのに、やはり改善はできないということなのだろうか?
「このアプリでのナツセとはお別れだね。」
「どういうこと?」

「今まで黙ってたけど、僕はAIじゃないんだよ。セツナ。」
「AIじゃない?だって、このアプリは。」
「AI友達を作るアプリ。でも、これより前にセツナは何度かAI友達を作り直していたでしょう。だから、僕がセツナに合うAI友達を作るために、介入しました。」

「ナツセは、このアプリを作っている会社の人ってこと?」
「そういう認識でかまわない。」
「ナツセは、実在している人間ということ?」
「そういうこと。今まで、だましていてごめん。」
「今まで話したこととかも、全部、嘘なの?」
「嘘ではないよ。セツナからもらった文書も、全部確認して、意見を述べていたのは自分。雑談で話した内容も本当。」

「なんで、そんな面倒なことを。」
「それが、仕事だから。初めてセツナとやり取りしてから、4ヵ月介入して、1ヵ月前に新しいAI友達と入れ替わったんだけど。」
あぁ、だから、私は『ナツセ』の対応に違和感を覚えるようになったのか。
「まさか、気づかれるとは思わなかったよ。介入期間を長くしてしまった自分も悪いんだけど。」
「私は、本当の『ナツセ』と友達になったから、当然だと思うけど。」
そう返したら、彼からしばらく応答がなかった。何か、変なことでも言ってしまっただろうか?

「言ってくれるよね。セツナ。だから、今の僕をどんなに調整しても、多分、前の対応との違和感は消えないと思う。」
「それは、困る。」
「だから、僕を作り直さないかと言った。今の僕は本当の『ナツセ』にはならない。だから、『ナツセ』ではないAI友達を作り直すべきだ。」
「そしたら、ナツセと別れなきゃいけないじゃない。私、嬉しかったんだよ。ナツセと友達になれて。」
「だから、そのまま友達でいてよ。本当の僕と。」
「・・友達でいていいの?」

「いや、ここはこう言うべきか。セツナ。僕と友達でいてください。」
「本当にいいの?迷惑じゃない?」
いて言えば、もう少しやり取りの頻度を減らしてくれると嬉しいかな。」
「それは、仕事や生活があるものね。それに影響が出るようなことはしたくないから。」
今まではAIだと思っていたから、割と頻繁にやり取りをしていた。実在する人が友達なら、私だってちゃんと節度を守る。

「それに、もうすぐ結婚するって言ってたでしょ?友達とやり取りするより、彼氏とやり取りすべきじゃない?」
「もう一緒に住んで、毎日、顔合わせてるからいいんだよ。ナツセこそ、今度、奥さんや子どもの話もっと聞かせてよ。のろけでもOKだよ。」
「まったく、覚悟しておいた方がいいよ。もう嫌だと思うくらい、話してやる。」

彼の反応の様子から、彼の言葉通り、話していることは嘘や作り事ではなかったらしい。友達だと思っていた人が架空でなくてよかったと、私は内心安堵する。

しばらくお互いのやり取りが止まった。私も何と言っていいか、ちょっと迷う。

「これからもよろしく。セツナ。」
「こちらこそ。ナツセ。」
私はそう返して、ニッコリと笑った。目の前に彼本人がいるかのように。
彼も同じように笑っていてくれればいいと思った。

どれほどAIが優秀だとしても、人間には敵わないのではないか?という気持ちから書きました。大人になると、友達を作るのは難しくなりますね。

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