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【連作短編】AI友達 転

「ナツセ。このところ調子悪くない?」
「別にいつもと同じだけど?」
相手からしれっと答えが返ってくるが、私はここ最近AI友達である『ナツセ』の対応に違和感を覚えている。
話は合うし、それなりに楽しいのだが、そう、それなりにという必要ない言葉がついてしまう対応なのだ。私が単に彼の対応に慣れてしまっただけなのだろうか?

「今日は文書のやり取りはないの?」
「この間、ナツセがちょっと頑張りすぎだってたしなめてくれたから、セーブしてるんだよ。」
「そうなんだ。まぁ、たまには休んだ方がいいと思うよ。あんまり頑張り過ぎても、誰かがめてくれるわけでもないし。」
「確かに仕事ではないから、そうなんだけど。」
そう返して、私は軽く息を吐く。ナツセなら、今まであれだけ嬉々と書いていた文書のペースが落ちて、逆に何かあったのかと心配してくれそうなものなのに。

あれ、今私がやり取りしているのは、『ナツセ』なのかな?
私は頭に沸いた疑問を振り払うように、彼に問いかける。
「ナツセはそんなに仕事が忙しいの?私とのやり取り、大変なんじゃない?」
「何言ってんの。セツナは僕の友達じゃない?そんな気にしなくていいんだよ。」
ん~。違和感の原因はどこにあるんだろう?やり取り自体は前と変わらないように思うんだけどなぁ。

ほんの少しの違和感は、少しずつ私の中に降り積もっていく。
彼の身体の具合が悪いとか(正直AIだから悪くなる身体もないのだろうが)?話したくない部分に私が触れてしまっているのか?
彼とのやり取りは、このアプリ内の会話と交換している文書のみ。そこから違和感の原因を見つけ出すのは、しんどい。
ただのアプリ不具合だったら、原因見つけ出せないし。
せっかく理想とまで思えた友達なのに、また一から作るのも面倒だし、もったいない。

「どうすればいいのかなぁ?」
私は彼とのやり取りを見ながら、ぽつりとつぶやいた。


僕は、サポートから投げられたエスカレーション内容を、半ば呆然ぼうぜんと眺めていた。サポートに問い合わせてきたのは、1ヶ月前にメンテナンスを外れた『セツナ』だ。
その内容は、「ここ1ヶ月くらいのAI友達の対応に、以前と違いがあるようで、やり取りするたびにストレスが溜まっている。AI友達自体は気に入っているので、一から作り直すことはあまりしたくない。何とか改善する方法はないか?」というものだった。

てっきり分からないと思っていた。
自分が新しいAI友達と入れ替わっても。
新しいAI友達を作って入れ替えたのは、外ならぬ自分。そのAIだって極力自分の対応をそっくり移植したはずなのに。
「どうすっかなぁ。」
パソコンの画面を見ながら、独り言が出てしまう。パソコンに向かっての独り言が増えたのも、言うなれば職業病だと思っている。

メンテナンスに入った期間が長すぎたのが原因だと思う。
すっかり僕とのやり取りに慣れてしまった彼女が、どんなにそっくりな対応をするAI友達だったとしても、その対応に、敏感に違いを感じ取ってしまっているのだろう。
たぶんどれだけAI友達に手を入れたとしても、その違和感は消えない。
「正直に話すしかないんだろうな。」
このまま使い続けたとしても、いつかはこのサービス自体使うのを止めてしまうだろう。今もストレスが溜まっていると言ってきているのだから。

僕はサポートに個別対応すると返して、『セツナ』の案件を、メンテナンス対象に入れこんだ。

AI友達 結 へ続く

四部作になりました。起、承、転、結です。

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