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<読書記録>水を縫う

今まで思い込んでいたことを
再認識したり、新しく見直す機会になりました。

舞台は、会社勤めの姉(水青)、手芸が好きな高校生の弟(清澄)シングルマザーの母(さつ子)とその母である祖母(文枝)の4人家族
周辺に、母親から追い出された洋服のデザインが好きな父親(全)とその理解者の友人(黒田)や
弟を取り巻く友人(宮多)(くるみ)たちも登場します。

長年一つ屋根の下で暮らした家族でさえ
お互いに理解できていない(話してもない)ところを家族それぞれの回想で紡いでいきます。


清澄

刺繍や手芸が好きな男子
中学までは一人で居ることが多かったけれど
高校に入ってからは「普通」に友達を作ろうと思っていました。
ところが、やはり、他の男子が好きで話していることに興味が持てず声をかけてくれた友達に、自分はこういう刺繍が好きだからと伝えると

その友達からは

めっちゃうまいやん、松岡くんすごいな

という反応が返ってきました。
どうせ、笑われると思っていた清澄は拍子抜けしますが、以降とてもよい友達になります。

大人もそうですよね。

本当は違う。この人たちと話していても面白くない。
そう思っても、悪く思われたくない、孤立したくない、という気持ちから
思ったことが言えず、居心地の悪さを抱えながら
その場に留まってしまいがちですが
我慢しなくても付き合える人がいなければ一人でもいい
いつか、そういう人に出会うまで無理することはないのだと私は思います。

友人(くるみちゃん)

彼女も他の子とは少し変わっていますが、変わっていることを隠そうともせず、誰かに阿ることもなく、好きな石を拾って磨いたりしています。

ある時、清澄がくるみちゃんにこんなことを尋ねます。

さっき拾った石も磨くの?

くるみちゃんは少し考えて

この石は磨かへん

と答えます。

磨かれたくない石もあるから。
つるつるのぴかぴかになりたくないってこの石が言うてる

石の意思なんてわかるのかと尋ねる清澄にくるみちゃんは

ぴかぴかしてないときれいやないってわけでもないやんか
ごつごつのざらざらの石のきれいさってあるから

「つるつるのぴかぴか」をみんなが好きなわけではない
人の好みも人それぞれだということを私もよく感じます。

先日、「本とハーブのある暮らし」というレッスンで
お土産にブックカバーを選んでもらいましたが
それぞれ、全然好みが違うことを改めて実感しました。

水青

結婚が決まり、ウエディングドレスを選ぶということが
この物語のメインのストーリーになります。
派手なものはいや、フリルはいや、という水青ですが
彼女は子供の頃のある出来事がきっかけでそのような思いに至るわけですが

私は、物心ついたときから、青い色が好きで
ひらひらしたフリルは苦手でした。
学生時代に友達に勧められて可愛い服を買ったときは
「女装」しているような気分になって一度着ただけになりました。

今も会議などで多数決を取ると、男性側と同意見になることが多く
「男性脳」だなあと思います。
とはいえ、それはものの考え方だけで
女性に対して恋愛感情を持つようなことはありません。

同じ、フリルが苦手、でもその背景は人それぞれ違うということも
改めて考えさせられます。

LGBTQという分類がありますが
人は一人一人違います。簡単に「分類」できるものではないと思います。
その当たり前に、気づかず、自分は「LGBTQ」以外と
思っている人たちも、一人一人違うのだということに気づかされます。

公務員としてバリバリ働く母からはうだつの上がらない人と
切り捨てられた父親ですが
弟の「ウエディングドレス作り」に渋々協力します。

子供達へは遠慮がちに関わる父親ですが
清澄は、子供の頃に聞いた自分の名前の由来を思い出します。
その頃にはよく意味がわからなかったことが
高校生になりさまざまな試練を超えて、

流れる水であってくれ

という父の思いを改めて心に刻みます。

流れる水は、けっして淀まない。
常に動き続けている
だから清らかで澄んでいる
一度も汚れたことがないのは「清らか」とは違う。
進み続けるものを
停滞しないものを
清らかと呼ぶんやと思う。
これから生きていくあいだに
たくさん泣いて傷つくんやろうし
悔しい思いをしたり
恥をかくこともあるだろうけど
それでも動き続けてほしい。
流れる水であってください

名前

人はみな名前があります。
その名前は、親が子供の幸せを願ってつけてくれたものです。

私も、ありふれた名前ではありますが
父から、名前にこめた願いをききました。
願い通りの娘にはなれませんでしたが
その思いを時々思い出すことで
少しは努力もしたかな?と思います。

この物語は、読者にいろいろな気づきを与えてくれると思います。

過去を変えられないと言いますが
過去をどのように見るか、でも変えられると私は思います。

実際に、小学校時代の友達に会い、その頃の想い出話をすると
私が見ていた「現実」と友達が見ていた「現実」が
真逆だったこともあります。
このあたりは、また別の機会にお話できたらと思います。

水を縫う

最後にこの不思議なタイトルですが
友人の宮多から「めっちゃうまいやん」という反応が返ってきた時に

わかってもらえるわけがない。どうして勝手にそう思い込んでいたのだろう。
出会ってきた人間がみんなそうだったから。
だとしても宮多は彼らではないのに

と気づいたときに目の前の川面のきらめきを見て
こう思います。

きらめくもの。ゆらめくもの。
目に見えていても、かたちのないものには触れられない。
すくいとって保管することもでくない。太陽が翳ればたちまち消え失せる。

だからこそ美しいと思えるそれを
なんでも「無理」と遠ざける姉のドレスに
再現したい

と。

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