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人造生命、人工知能の時代の新たな生命産業をつくるには?

トポス会議「新生命産業共創」における人類社会の挑戦

2022年4月6日に「新生命産業共創」というテーマでコンファレンスを行います。今回で第16回目になりますが、これは「トポス会議」(Topos Conference)といって、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生と筆者(紺野登)が発起人となって設立したw3i(World Wise Web)が日本から世界との智者との対話の場を設けていこうという試みです(第13回目までの記録がこの本にまとまっています)。

賢者たちのダイアローグ ―「トポス会議」の実践知

トポス会議の「トポス(topos)」とはギリシャ語で「場」を意味します。トピック(topic)などの語源で、私たちはこの会議を通常の専門家の意見を公開するイベントでなく、未来の重要なテーマについてどのように考え実践していけばいいのか、参加者がそれぞれの智慧を寄せ合い議論する場と位置づけています。

今回のトポス会議は一般社団法人FCAJ(フューチャーセンター・アライアンス・ジャパン)主催、新パリクラブ(The New Club of Paris)サンドレッド(新産業共創スタジオ)オープンイノベーション・ラボ・オブ・ノルウェー、そしてエコシスラボが共催となります。富士通さん、TDKさんなどにもスポンサーとして協賛していただいています。

新生命産業というトピックについて

今回とりあげる「新生命産業共創」では、これからの生命をテーマに、21世紀における産業創造、イノベーションのありかた、とくに社会構造を革新していくオープン・イノベーション(Societal Open Innovation:SOI)をめぐって議論します。

イノベーションはますます社会課題に取り組んでいく要請に駆られていますが、SOIはいわゆる特定の社会課題を解決するソーシャル・イノベーションではなく、社会構造を変えていく「ソサエイタル・イノベーション」を意味しています。また、企業間(大企業同士や大企業とスタートアップ)の知財・資産のオープンなトレーディングを主とするオープンイノベション1.0でなく、ユーザーや生活者、社会を軸とする「オープンイノベーション2.0」による、新たな産業共創を前提としています。

次に「新・生命産業」とはなんでしょうか。すでに存在する「生命産業」はいわゆるバイオ産業であり、生命科学を技術的に活用した産業を意味するものと思います。食(農林水産)、健康(医療・福祉)、環境、教育などの領域に関わる技術開発や社会システムづくりを志向する産業ですが、「本来は社会の価値観を機械論から生命論的世界観に転換することが狙いだったが、従来の金融経済の下での競争社会にでは利益重視に偏っている」といった批判もありました(中村桂子氏など)。

環境革命の下での新生命産業化

いま21世紀になって、環境・エネルギーなど地球と人間の生命の持続性が課題になり、新しい経済・社会規範が生まれ、同時に新たなテクノロジーの台頭がみられます。
テクノロジーで言えば合成生物学、IPS細胞といった従来の生命科学分野に加えて、AI、ロボット、メタバースなど人間ではない生命や知能、現実ではない生活空間なども含めて、私たちの生きる世界の大きな転換・展開が起きています。AIやロボットとともに生きたり、人造生命や再生細胞が食生活に浸透するなど、生命の概念自体の揺らぎも見られます。そこには「新しい倫理」が大きなイシューとして存在します。

科学史家の伊東俊太郎氏は現在は環境革命の時代という認識のもと、世界を生きとし生ける生命として見る生世界、バイオワールドの世界観、共生関係の重要性を示唆しています。
現時点で世界の大きな関心は社会化する環境問題です。環境問題が大きな世紀のトピックとなり「人新世」のようなコンセプトが生まれてきました。しかし、そのような時代ゆえに、その下で生きる生命世界が問題になるのです。再生医療などの産業化もますます進むでしょう。

こうした背景から従来の生命産業はアップデートされなければなりません。では生命に不可欠の産業を生み出すために求められるのはなんでしょうか?当然それは人類の長寿化、高齢化、といった問題にも関わります。地球と人間の未来を支えるためには何が求められるでしょうか?これらは非常におおきな広がりを持った産業でもありますが、従来の産業創造と同じように経済的技術的側面だけで考えてよいでしょうか。

日本は課題先進国といわれますが、課題が生まれてから解決では遅いでしょう。顕在化する、前に議論を進める。そこでトポス会議のテーマとして焦点をあてました。

トポス会議にようこそ

これからのイノベーション、産業創造には、技術・経済・社会だけにとどまらない人類の「賢さ」が問われるでしょう。その対象は人間だけではないのです。バイオエンジニアリングの対象となる動植物の世界とも調停を図っていかねばなりません。そもそもコロナウィルスも人間と自然界の境界の破れから生じたという説もあります。

人間や地球の生命の問題、人工知能などの新たな生命体、デジタルな新たな生存領域など、新たな生命のあり方が議論されるでしょう。それは生命科学からエネルギー、宇宙に至るまで智慧と技術を綜合する「新生命産業」の出現を意味します。その実現のためには社会構造を革新するような共創(社会的オープンイノベーション)が必須であり、構想・共創の「場」が不可欠と考えられます。

そこで今回のトポス会議ではその意味合い、可能性について考えたいと思います。

キーノートには再生医療研究の先端をゆく研究者武部 貴則氏(東京医科歯科大学 教授/横浜市立大学 特別教授)。そして最新作『Genesis Machine』で人造生命技術とデジタル(バイオコンピューティング、メタスペース)などの境界がなくなる社会や産業の世界を描いて大きな話題となっているエイミー・ウェブ氏(未来学者、ニューヨーク大学スターン・ビジネススクール教授、ビデオ出演)を招聘しました。
そのうえで3つのトポスを開きます。このパネルには、昨年オープン・イノベーション(Societal Open Innovation:SOI)に関する研究会を実施した際のグローバルなメンバーが参加します。

キーノートスピーカー

トポス1 新生命産業共創のための目的論

生命と産業が結びつき、世界がアップデートされた時に大切な想いと価値は?また倫理との向き合い方とは?どのように、単なる目標を超えてよりおおきな目的を考えていけるのだろうか?人生における本当の目的と社会の目的の整合性とは?

このトポスにはイノベーションにおける目的についてP&Gでオープンイノベーションを実践してきたJ.ラーダーキリシャナン ナーヤ氏、新パリクラブ(NCP)代表で知識経済の専門家、ステファン・ギュルデンバーグ教授、ワールド・ヘルス・イノベーション・サミット創設者兼CEOでSDGsの実現をすすめるガレス・プレッシュ氏、そして武部先生が議論します。

トポス2 新生命産業共創のためのイノベータ(インタープレナーとは?)

新しい世界での人びとの価値の捉え方と、コミュニケーションそしてウェルネスをどう関係づけていくのか?そのときの新たな媒介者とは?

このトポスにはサンドレッド代表、前レノボジャパン代表  留目真伸氏、スウェーデンルンド大学教授、NCP創設者レイフ・エドヴィンソン氏(フューチャーセンターの父とも呼ばれる)、ナレッジ・ダイアログ代表、NCPメンバーのワルトラウト・リッター氏、自身アントレプレナーでオープンイノベーション・ラボ・ノルウェー創設者、トゥルルス・ベルグ氏が登壇します。

トポス3 新生命産業にみるエコシステムの未来

新しい生命と産業が結びつくサステナブルな場とその取り組みはいかにあるべきか?

このトポスでは世界のオープンイノベーション研究者が集います。

欧州委員会・欧州クラスター専門家グループメンバーのルシア・シール氏、アントワープ大学教授、ウィム・ヴァンハーベルベーケ教授、東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻教授元橋 一之氏、マーストリヒト大学教授で「輝ける失敗研究所」最高失敗責任者ポール・イスケ氏

トポス1-3(パネル)参加者

振り返って、2014年7月には第六回トポス会議では「エイジング3.0」をテーマにしました。そこで示唆されたのは、(長寿社会がやってきても)高齢化が必ずしも「賢さ」につながらないということ、求められる若者との世代間協力も進むかどうかはわからないというショッキングな結論でした。

新生命産業の共創には意図された賢さ、つまりイノベーションや未来への倫理、世代格差を超える場づくりが必要です。

このテキストはイベントのために書きましたが、新生命産業の共創は持続的に考えていくべきトピックです。関心のある方は是非ご参加ください




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