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親鳥の産卵:立ち止まることは、変わること

(※この物語は、小説『思考と対話』のインスピレーションを与えてくれた方の実体験に基づいています。思考を整理して発想を広げる「感性のメンテナンス」というグループコンサルを2年以上継続されている方が対象です)

 日曜の昼過ぎ、ツトムは地域サークルのバンド練習を終えて、市民センターを出た。玄関の天井を見上げると、鳥の巣がある。最近はヒナの合唱が賑やかだ。
「温めてた卵、孵ったんやなあ」
 ツトムにとってその声は、新しい何かが始まる合図に聞こえた。

 去年の夏、親鳥がせっせとエサを探して飛び回っていた頃、ツトムは答えを探していた。

「学校英語って、なんでこんなにおもしろくないんやろ」

 先生の仕事と趣味のバンド。気持ちの落差に戸惑い続けていた。
「子どもたちも、そりゃあ苦労するやろ」
 学校の中では解決できない問題が山積みで、ツトムは答えを外に求めた。講座、セミナー、ライブ、映画、本、友人への悩み相談。学校のテストに出てこない問題は、解き方がわからなかった。

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 秋になってヒナが羽ばたく頃、ツトムは答えを探すのをやめた。
「テスト前に慌てて勉強を始める子どもと一緒やん」
 困った時だけ答えを探して、解決したらまた困るまで元通り。
同じことを繰り返していると気付いてようやく立ち止まった。
その時期に、『感性のメンテナンス』というものを知った。

「立ち止まって、頭の整理? 勉強や講座じゃない?」

 最初はわけがわからなかった。
一ヶ月を振り返り、人とシェアして、人生の物語をまとめる。
知識は教えてくれないし、答えも問題解決もない。
「感情を味わうことを大切に」って、悩んでたら無理やろ。
市民センターの天井の巣は、すっかりヒナが飛び立って空っぽ。
時間が止まったような冬が訪れた。

「そもそも、答えなんてないのかもしれない」
冬を越え、春の気配が漂う季節がきて、ようやく何か見えてきた。
季節と同じように、感情もまた巡る。自分のペースがわかれば、
一喜一憂する必要はない。良い時も悪い時も、「これでいい」と
理解できることが大事に思えてきた。自分を知るってことか。

 この春、親鳥はまた巣をつくり、卵を温め、ヒナを育て始めた。
ツトムにも、心の中でずっと温めている卵がある。
「英語も音楽も、もっと自分らしく自由に表現できるとええなあ」
温めるから卵は孵る。鳥に元気をもらって、ツトムは歩き出した。

「お互い、立ち止まりながら、変わっていこう!」
 どんなヒナが生まれ育つのか、お楽しみはこれから。
(つづく)

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ハーフフィクション小説『思考と対話』〜人生に物語を、物語に人生に〜
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発行元 : 株式会社福幸塾(www.fukojuku.com)
創作指揮: 福田幸志郎(勉強を教えない塾じゅくちょう)

※ この物語はハーフフィクションです。
  登場する人物・団体・名称等は……半分創作であり、
  実在のものとは……半分関係があります。
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