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スマホゲームのガチャで振り返る広告史

 ガチャ。バンダイの商標で言うとガシャだが、今回はガチャとして話を進める。
 現代のスマホゲーム広告において、ガチャは切っても切れない要素になりつつある。ガチャシステムに関する是非は語られる事は多けれど、スマホゲームの広告においてガチャの紹介が無い例はかなり少ない。それだけガチャがあるなら紹介するし、それ以外にもプレゼントがあれば紹介するのがよくあるパターンである。
 よって、今回は携帯ゲームのガチャの面からソシャゲを振り返り、今後のプレゼント、あるいはガチャ紹介の広告がどうなっていくかを考えていこうと思う。


・ガラケー主軸期のゲーム広告を振り返る

 いわゆるソシャゲ広告の歴史を考える上で、最初に見返すべきはガラケー時代のゲームである。
 今でこそソシャゲと言えば崩壊スターレイルやウマ娘みたいな家庭用機さながらの超クオリティゲームを思い浮かべるかもしれないが、かつてのソシャゲとはもっとシンプルな物だった。それこそ二つ折りの携帯電話の5キーを連打するだけみたいなゲームがたくさん生まれていたのである。
 いくつか代表的なタイトルの紹介と共に、CMを見返してみよう。

・iアプリ広告(2004年~2007年)

 携帯ゲームにガチャやソーシャル要素が登場する前の広告は、ガラケーで何が出来るかという所を紹介する場合が多かった。ドラクエ、FF、桃鉄、鉄拳、ときメモ、太鼓の達人、様々なゲームが携帯で遊べた。
 当時のゲームはガチャ要素が無く、その分月額315円とか払えばゲームが遊び放題、のようなシステムになっている。またモバゲーやGREE、@もちこでもFlashゲームのような形で遊べるミニゲームも配信され始めていた。

懸賞パズルパクロス(参考動画7:51~)

 このようなゲーム広告でプレゼントが紹介されたのは「懸賞パズルパクロス」のCMが代表格か。とはいえこの10万円プレゼントキャンペーンはコンビニで買えるような懸賞雑誌の文脈に近いと言えるだろう。
 後にゲーム広告でありがちになる何かしらをプレゼントする広告が登場するのは、2012年頃の話になる。

・GREE、モバゲーTOWN黎明期のソシャゲ(2007年~2010年)

 2007年頃に登場した「釣り★スタ」が日本におけるソシャゲのヒットであり、携帯電話向けのソシャゲが主流となった事がwikipediaには記載されている。実際に当時「ソシャゲ」と呼ばれるジャンルが始まったのはGREEやモバゲーtownの登場期で、この頃のソシャゲはアイテムに対して課金するようなパターンが多かった。
 特に自分はハコニワを多少は書ける程度にプレイしていたのだが、当時のハコニワだったら良い植物が生えやすい畑を購入したり、庭を彩る飾りをガチャで手に入れるために課金するのがメインだった印象がある。このゲームに課金するのもバカバカしいという思想は当然あったし、ランキング上位報酬のために走っているような人以外は単にコミュニケーション目当てでやっているような人も多かった。ソーシャルゲームと呼ばれる所以の一つだ。
 あとはイベント前に無料でもらえる高級な畑をかき集めておいて、特定の植物が生えやすくなるイベント時にまとめて使用する事によって無課金で特定の植物が大量に生えているハコニワを作るようなテクもあったりした。これをやると他人のハコニワで5キーを押すと低確率で他人の庭に生えている植物の種が手に入るというシステムを活かし、他の人に種を集めてもらうためにレア植物を固めて配置するような事もしていた。

 ではガチャは無かったかと言えばそうではなく、いわゆるアバターのカスタマイズパーツをガチャで売っていたのはこの頃からあったと記憶している。他者よりも見映えの良いアバターを作りたい、というのがガチャの始まりであった。
 悪名高い「コンプガチャ」もこの当時はバリバリに行われており、複数の当たりを組み合わせで集めると別の当たりが手に入る形式はよくあるものだった。もしこの時期に消費者庁が動いていなかったら今でもコンプガチャは存在していたのだろうか、と思うと恐ろしい。

 この時期のソシャゲと言えば、怪盗ロワイヤルも忘れてはならない。これはいわゆる攻撃力、防御力のステータスを上げてお宝を他人から盗むというゲームで、競争の激しいゲームだったように思う。というか、世間的にはこっちの方がソシャゲの始まりにあたる事を最近知りました。最初期のソシャゲと言えばGREEの釣り★スタやハコニワだと思ってたので……
 当時の自分は宝の盗み合いに参加しづらい生活環境だったし、モバゲーよりもGREE派だったのでそんなに書けることがありません。とはいえここまでの広告をみてもらうと分かる通り、最初期のソシャゲの広告は単にゲーム内容を紹介するだけの内容がメインだったことが分かると思います。
 最初からプレゼントするガチャや、今始めると何が手に入る、という事を紹介していた訳ではなかったんですね。

・ドラゴンコレクションの切り拓くガラケーソシャゲ黄金期

 いわゆるガチャでカードを集めて、他のプレイヤーと対戦しようというゲームの祖先となるタイトルがドラゴンコレクション(2010-)。KONAMIの生み出した一種の発明であり、以後家庭用ゲームにまでガチャ要素が登場するきっかけになったタイトルだと言えるだろう。

 このドラゴンコレクションの大ヒットの影響は、GREEの看板タイトルだった探検ドリランドにも及ぶ。タイトルは同じままゲーム内容が変化し、ドラゴンコレクションライクなカードバトルソシャゲになってしまったのだ。2010年頃までは宝石や財宝を採掘するゲームだったのは、先ほど掲載したベッキーの関連CM集の1分頃を見れば分かるかと思う。
 TOKIOのCMで大きな話題になった探検ドリランドもGREEの看板タイトルになりテレビアニメにまでなったのだが、当然この時代のソシャゲでもまだガチャ数のアピールやプレゼントの紹介は無い。おそらくこの頃はまだ競合するようなソシャゲも少なく、広告をやればやるだけドリランドあるいはドラコレなどの数少ないタイトルに流入していったのだろう。
 ここからソーシャルゲームバブルが始まっていき、その代表となる出来事として2012年頃には「任天堂の倒し方、知らないでしょ?オレらはもう知ってますよ」という語録が2012年、ネットメディアZAKZAKの記事に掲載されるという出来事まで起きた。

 しかし2012年5月18日、消費者庁はコンプガチャ……規定された複数種のカードを獲得すると別のアイテムを新たに入手できるというガチャ形式を禁止する事になる。
 正確にはコンプガチャが景品表示法で禁止している「カード合わせ」、「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供はしてはならない」という懸賞商品制限告示の第5項に当てはまるとした。このコンプガチャ規制以降、ソシャゲの売り方という物が再検討されたのは間違いない。
 そして2012年は2008年にiPhone3Gが発売されてからちょうど4年が経過し、パズル&ドラゴンズなどスマホならではのモバイルゲームの形式が模索され始めた時期でもある。ソーシャルゲームに対して学生が過剰に課金してしまうとか、高額課金のトラブルが話題になり始めたとか、そのような暗い話題が増えたのも2009年~2012年期だったように思います。
 この時期はそもそもガチャ要素が広告されなかった。基本的に特攻つきのガチャは課金が必要な物であり、大量に無料で配るなんて考えられないと思われていたのだろう。

・スマホゲーム時代の始まり

・モバイルゲームとソーシャルゲームの分岐期(2012-2016)

神撃のバハムート(2011-)

 転機が訪れたのは2011年にサービスを開始した神撃のバハムートである。wikipedia曰く2012年6月よりTVCMを開始し、そのタイミングで「オリヴィエもらえる!」という広告を開始したのだ。
 これは現状確認出来る上で最古の「〇〇もらえる!」を主張した広告であり、ソシャゲを開始する上で何かを無料プレゼントする事を伝える時代の始まりである。
 もちろん神撃のバハムート以前にも、ゲーム内等で何かをもらえる事を紹介していたゲームはあるかもしれない。とはいえ現状残っている資料ではこれが最古であるし、この「〇〇もらえる!」という広告は後の「〇〇連ガチャもらえる!」の基礎である事は間違いない。

 そんな中、2012年にパズドラが、2013年にモンスターストライクが登場する。
 これらのゲームはソーシャルゲームというよりもモバイルゲームという括りであり、初期の広告ではガチャ数やプレゼント要素よりもゲームシステム自体の面白さや、スマホでどこでも楽しく遊べるような事を紹介するような内容がメインになっている。
 3DSなどの携帯用ゲーム機や、ゲームセンターで遊ぶアーケードゲームへの進出も盛んにおこなわれた。このようなゲーム性を主張する広告も、後に偽ゲーム広告や本当に遊べるゲームシステム主体の広告に繋がっていく。
 無論、サービス開始から時間が経った後はパズドラやモンストも無料プレゼントを推すような広告を開始する事になる。しかしこれはあくまで時代の流れであり、ゲームに新奇性があった時代は広告の主題にプレゼントを置いていなかった。

 余談だが、現代日本においてスマホゲームの分類、呼称が「ソーシャルゲーム」と「モバイルゲーム」の境界が未だ曖昧であるのは広告にも一つの原因があるのではないかと思っている。
 ソーシャルゲームはその名の通り他のプレイヤーとの交流要素、取引や奪い合いなどの要素が強く盛り込まれているのは黎明期のソシャゲを確認すると分かりやすいが、これらの広告が当初は〇〇もらえる、〇〇連ガチャ獲得を謳っていた。
 その後ソーシャル要素の少ないモバイルゲームが登場したが、広告においてはどちらも「スマホゲーム」であり、ソシャゲの特徴の一つであるガチャ要素はモバイルゲームにも導入されていた。よってソーシャル要素の有無問わず携帯電話で遊ぶゲーム=ソーシャルゲームと解釈されてしまうきらいがあったように思う。
 時代が進んだ現代においてはモバイルゲーム要素が強かったとしてもガチャ要素の紹介が大きくなる傾向があるし、そもそもスマホゲームの発展速度は極めて早い。ソーシャルゲームとモバイルゲームの区分けを行うよりもゲーム側が早く進化を続けた結果、分類がなあなあになってガチャのあるスマホゲームはほぼ全てソーシャルゲームと呼ばれるようになったのではないか。

・ガチャインフレの萌芽(2017,2019)

グランブルーファンタジー(2017/12)

 インフレしたガチャを紹介し始めたのは、自分の記憶ではグラブルが最初ではないか。2017年12月、ガチャピンとコラボして無料100連ガチャを紹介し始めたのが全ての始まりである。
 文脈を考えるならば2016年1月のアンチラガチャ事件、排出率の記載や天井搭載辺りも多少は絡んでいるのではないかと思われるが、それはさておき広告で無料100連ガチャを訴求し始めたのは2017年から。ソース周りはgamewithしか無かったので、もしもっと前からやっている例等ありましたらコメント等ください。
 このキャンペーンによってグラブル=ガチャが悪どくて課金必須というネガティブイメージを払拭したかったのではないか? という気がするのだが、推測の域を出ない。

グランブルーファンタジー(2019/12)

 そしてその2年後、ついに最高200連ガチャ毎日無料という後の呪いの数字が生まれる事になる。
 「ガチャをたくさん引けるゲーム」という独自の広告を築いていたのは当時のグラブルの特殊性を窺わせるが、むしろそれこそが他のソシャゲ、モバイルゲームとの差別点となった。
 また2018年にはグラブルお中元ガチャと称して、ゲーム内で実際のズワイガニやコシヒカリなどを獲得出来るガチャを行っていたのも要注目。これは2023年以降のダークテイルズらが始めたiPhoneプレゼント企画の前身だと言って良いでしょう。
 海外広告がやっていた施策は大体グラブルがやった事のある施策だ、と考えるとグラブルの偉大さが伝わるかと思います。

 ちなみにグラブルの2014年頃の広告を振り返ると、植松伸夫や皆葉英夫のような有名クリエイターを紹介するような広告の方が多かった。グラブルも最初からガチャ推しばかりではなかった事が窺える。
 2014年のデレマスコラボで「渋谷凛もらえる!」という広告も行っていたが、これは神撃のバハムート時代の広告を踏襲していると言えるだろう。

・ガチャ広告は何故行われなかったのか?

 とはいえ、ガチャ数での勝負は2020年に魔剣伝説が登場するまで行われていなかったようである。
 現在も遊ばれている代表的なタイトルを振り返ると、確かに各年で有名なタイトルが生まれていた。2016年にはポケモンGO、2017年には荒野行動、2018年にはロマサガRS、2019年にはアークナイツなどの新作大型タイトルが登場している。しかし、それらのタイトルは軒並みガチャの多さで勝負するようなゲームではない。
 また2017年の4Gamerの業界動向を改めて確認すると、既存のモンスト、FGO、パズドラと言ったタイトルが軒並み堅調、かつ強大なタイトルとして日本市場に居座っていた事を示すような記載も残されている。実際のユーザー視点からもそのような印象はあったが、明確な記録として残っているのは貴重だろう。

 (前略)問題はそれだけではない。セールスランキングをよく見ていれば分かるが、上位はいつも「モンスターストライク」「Fate/Grand Order」「パズル&ドラゴンズ」といった常連タイトルが占めている。いずれも運営期間が3年前後で、安定期に入ったものばかりだ。運営も遊び方もルーティン化しているため、ランキング上位だからといって、このようなタイトルから今年のトレンドを窺い知ることは困難だろう。
 ゲームアプリ市場の動向を考えたとき,最も注目すべきなのは,定番の人気タイトルではなく,むしろ強豪に肉薄した新作タイトルではないだろうか。

引用:4Gamer 「2017年ゲームアプリ市場のセールスランキングから紐解く新作リリース動向。IP,海外発,女性向け……成功タイトルの共通点を探る」

 いわゆる中華アプリゲー広告が話題になり始めたのは荒野行動がその嚆矢であったわけだが、それは2017年にPUBGがサービス開始した直後に荒野行動というパクリゲームの広告をYoutubeで始めた事が大きく、ガチャ数やプレゼントは問題では無かった。
 ちなみに2017年に登場した中華アプリゲームでは放置少女もあったが、これもガチャ数で話題になったと言うよりはカジュアルゲーム風のゲーム本編で遊べないミニゲームを広告している「虚偽広告」の側面が強い。
 初期の海外広告の傾向としてはガチャの多さで釣るというよりも魅力的に見えるゲーム風広告、あるいはコメディチックな茶番で釣りに行く傾向が2024年以上に強かったと言える。

・魔剣伝説・ショック以降

・魔剣伝説の登場~ガチャインフレの始まり~(2020-2022)

 そんな中、とうとう『魔剣伝説』が登場する。
 魔剣伝説と言えば無料200連ガチャを訴求している印象が強いかもしれないが、実は最初に魔剣伝説が話題になったのは伊藤英明という有名な役者がどこの馬の骨とも知らぬゲームの広告に出演していて、その広告が異様にYoutubeで流れていたという話題性であった。しかもこれがゲーム内容自体そこまで面白くないし、ゲーム本編に対しての虚偽もある。いわゆる「第三期クソ広告ブーム」の始まりである。

魔剣伝説200連無料ガチャ訴求(2020/9)

 そして200連無料ガチャをスタートし、広告にもこの訴求を入れ始めたのが2020年9月からである。
 広告や公式Xを見ているだけだとイベント開始期間が定かで無かったが、これも4Gamerの記事を参照すると2020年8月のイベント時点では無料10連ガチャを訴求していて、2020年9月のイベント以降から200連無料を訴求し始めている事から2020年9月以降より無料200連ガチャブームが始まったと記載できる。
 その後2021年1月には超限定感謝祭と称して無料400連ガチャの訴求が開始。期間限定とはいえ、この1年間であっという間に400連までインフレが進んでしまったのだ。
 
この流れに乗ってかシャニマスは最大430連無料ガチャ、三国ドライブは最大3594連ガチャで応戦。ガチャ数は飛躍的に増加し、やり方の方針や表現の変更を強いられる事になります。

 そして2021年の大型タイトルと言えば、ウマ娘の登場があった点は大きなターニングポイントだったと言えるだろう。
 同年に登場した大型タイトルとしてはブルアカもあったが、こちらは初動で不具合等が多く登場直後はいまいちパッとしなかった。他にも著名IP側のタイトルであれば『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚』『NieR RE [in] carnation』が登場していて、海外タイトルでも『ザ・アンツ』『三国志真戦』などが登場。
 ここで高クオリティなゲームを出して課金を狙っていくか、あるいは大量のガチャや怪しい詐欺広告で釣りにいくかという流れが2021~2022年に続く傾向となる。

・無料1000連+プレゼントの時代と、インフレの終着点(2023-2024)

ダークテイルズ(2023-)

 2023年3月、ダークテイルズと名将の復讐が無料1000連ガチャとニンテンドースイッチ、iphone、PS5をセットにした広告をスタート。
 ここからガチャ推しを行う場合、大体1000連以上のガチャ+そのタイミングでのトレンドのプレゼントをつけるような形が一般的になった。そしてこの流れはドット勇者、キノコ伝説とガチャの多さを語るような広告を行う場合のセオリーとして定着している。
 リアルプレゼントの質で勝負する流れもインフレが始まっており、最初は家庭用ゲーム機、スマホ本体が主軸だったのに対して今では海外旅行券などがプレゼントについてくる時代である。そもそもそれらのプレゼントを本当に配布しているのか? という真偽はしばしば疑われるが、今後もこういう広告は無くならないだろう。当選報告をする人が現れたら連絡をください。

東京戦国ダンジョン(2024)

 ちなみにガチャのインフレに関しては、2024年に『東京戦国ダンジョン』が「無料でガチャが無限に引ける」を訴求した事で一旦の終着を見せたと言って良いと思われます。
 一応補足しておくと「ダイヤが無限にもらえる=無限にガチャが引ける」という理屈なので最初から常に無料で無限にガチャを引ける訳ではない。また荒野行動も無限ガチャを告知していたが、これは無限引き直しガチャという理屈なのでまたちょっと事情が異なる。とはいえ、広告において無限という言葉はそう驚くほどのキーワードでは無くなった事はお分かりいただけたかと思います。
 今後無限を超えるガチャを引けるようになったり、超限数のガチャを実装したゲームが現れたらさらにガチャインフレが加速する可能性はありますが、そんな時代が訪れるのでしょうか。もし来たら更新しますが、多分無いので今回のガチャインフレの記事を作ろうと思った次第です。

・ガチャを大量に引かせても破綻させない方法

 とはいえ、ここまで記事を読んだ方からすると「一体何故無料でガチャをそんなに引かせられるのか?」という疑問が浮かんでくるかもしれない。
 よって、ここからはゲーム的な側面で無料でガチャを引ける理屈の方を紹介していこうと思う。ちなみに、これらの施策全般に共通している特徴は上手にガチャの価値を下げているという事です。

・大量ガチャの大前提~プレイヤー全員に与える~

荒野行動(2017-)

 ここは基本的なポイントであるが、絶対にこういう施策はプレイヤー全員に引かせる。何故なら、全員がプレゼントをもらう分にはその施策は0円同然だからだ。そもそも一部にしかプレゼントしないというのもそれはそれで不公平感があるし例外処理が必要になるので、基本は全員に配る物だろう。
 最初に登場した「〇〇もらえる!」の時代からそうだが、全員に同じアイテムを与えればそのアイテムではプレイヤー間の優劣が発生しないのである。例え何千回、何万回とガチャを引かせようと、全員が同じ数ガチャを引いていると前提するならば全員が大量にガチャを引いた状態から競争がスタートするのでそこからどれだけ課金するか、という勝負になる。

 よって、このプレゼント企画ではどれだけ刺激的なワードを盛り込めるかがカギになる。例えば最初に〇〇もらえる!を主張した時代は、ガチャをしないとレアキャラが手に入らないという時代背景があったからこそ何かがもらえるというワードに価値があったのだ。同じく魔剣伝説の無料200連ガチャもらえるだって、ダークテイルズの1000連ガチャ+プレゼントだって、全部その時期においては逸脱した価値のあるキャッチコピーだったし、だから最低限初動はある程度の収益を得ている。
 何も考えなく「〇〇もらえる!」とか、「200連ガチャもらえる!」といったキャンペーンワードで勝負したゲームは初動すら失敗している辺りから窺えるだろう。ただ与えれば良いってもんではない。

・既に無料同然の景品を当たりにする

 一般的なゲームの無料大量ガチャ広告がこれにあたる。
 一見ガチャと言うと何でも価値があるように見えるが、例えば最新の当たりキャラはラインナップから外しておくとか、すでに型落ちの強さのキャラクターのみが排出されるようにすれば大量に引かせてもそれほど痛くは無い。
 この手法のメリットとしては、広告の上では大きな数値を簡単に取り扱える事。これから始める人にとっては型落ちでもレア度が高いキャラならありがたいし、多少やっている人でもまだ入手していないキャラの入手機会になり、運営からすると別にあげても良いレベルの当たりしか渡していないからそれほど困らない。三方良しの施策パターン。
 デメリットを挙げるなら、多少ゲームが続いていないと無料同然の景品が存在しない事。よってサービス開始直後からいきなり「無料1000連ガチャ無料!」としたいなら別のテクが必要になるし、サービス開始から多少時間が経っても1000連ガチャなど度を超えたガチャを配るのは難しい場合もある。

・1枚獲得しただけではそれほど有効でないシステムにする

キノコ伝説(2024)

 では最初から無料で大量にガチャを引かせたい場合はどうするか? と言えば、対象のキャラを1体獲得したところでどうしようも無いゲームにすれば良い。
 一番分かりやすいのは、対象のキャラを手に入れてもさらにダブりでキャラを当ててキャラを強化しないと戦力にならないようにする事だろう。こうすれば多少初動でガチャを引かせても課金事情にはそれほど関わらないし、むしろ強化を目指して課金する撒き餌になる場合がある。
 あるいはキャラを獲得出来るガチャではなく、装備品やスキルを獲得出来るガチャにするのも良い。これをやったのがキノコ伝説で、色々な育成要素にガチャを盛り込む事によって事あるごとにガチャをするタイミングが発生し、無料3000連ガチャと言ってもゲーム中ではさしたる価値を持たないようにしていた。

 このタイプの施策のメリットは、最初から大量ガチャを訴求する広告が出来る事。割と最近のゲームはグラフィック自慢であっても100回程度ガチャを引かせてくれる場合もあるが、これはシステム面での工夫が光っていると言える。
 デメリットはそのようなガチャを許容するシステムが必要になる事。結果似たようなゲームが増え、飽きられて結局課金されずに消えて行ったソシャゲが大量にある事を忘れてはいけない。
 またキノコ伝説の場合、別に大量ガチャだけが素晴らしかったのではなく豪華景品プレゼント、ゲーム内アイテムプレゼントも絡めて全面的に得っぽそうな雰囲気を出していた。ガチャの数だけでなく他の要素でも全部上回ろうとする気概があったからこそ、広告での注目度が高かったのは一理あると思います。

・ゲームの進行状況に応じて小分けにして渡す

ワンちゃんごちゃごちゃ大戦争(2023)

 広告上では〇〇連ガチャを呼称しておいても、別に連続で引かせなくてよくねえか? という開き直りを許容するならこういうやり方もある。
 例えばゲーム上では毎日10連ガチャを配布する、というキャンペーンを999日続けたとしたら、9999連ガチャを主張出来るだろう。それを実行したのがワンちゃんごちゃごちゃ大戦争である。
 他にはキノコ伝説だと仲間ガチャと技能ガチャ1500回ずつをステージ進行ごとに10連ずつ小分けにして配り、合計3000回ガチャを「最大3000連ガチャ」と紹介している。要はこれもアイテムを全部獲得した後に3000回連続で回したら3000連ガチャと言えるし、それが難しいだろうと言われても「あくまで最大だから」と言い逃れが効く。

 これもメリットは最初から大量ガチャ広告が出来る事があるが、それに加えて多少はゲームを継続する理由づけになる点が挙げられる。継続してやればガチャが引けるから頑張ろう、というモチベになるし、この大量ガチャを引ける期間を規定すれば一定期間に一気にやり込ませて課金を狙ったり、ハマる所までプレイを継続させるような働きも狙える。
 デメリットは詐欺と言われても文句は言えない事。これを回避するために「1000回ガチャ」として連続で引けるとは主張しないとか、「最大」を付ける事によって最低値を引いても文句は言わせないとか、いろいろと小細工を行っている様が見受けられる。逆に言えばキャッチコピーの一工夫で何とかなる程度のデメリットとも言えます。

ドット勇者(2023-)

 また、ドット勇者は2023年8月の初動こそ1024連ガチャであったが、2024年年始のタイミングで2024連ガチャにグレードアップし、1周年のタイミングでは10000連ガチャ+5億ダイヤ山分けと順調にベースアップを進めている。これはドット勇者に限った話ではなく、キノコ伝説もサービス開始から3ヶ月程度経過したタイミングで3000連ガチャから4000連ガチャへのベースアップを行っていた。
 本気でガチャ数で勝負し続けるとしたらガチャ数のベアは必須であるし、ドット勇者が10000連ガチャを本格的に主張し始めた以上ガチャ数で勝負するならこれからは10000以上の数字を用意しないと勝負にならないだろう。まだガチャバトルは終わっていないのだ。

・山分けや表現のアヤで大量ガチャっぽく見せる

トワツガイ(2023-2024)

 トワツガイの例を見ると分かりやすいが、「総計」の文字をつければ100億連ガチャキャンペーンなども行えはする。トワツガイの場合は抽選で1人に「9,999,900,000連分の100連ガチャチケット」を配布して、それ以外には100連ガチャチケットや5連ガチャチケットを配る……というかなりややこしい施策になっていた。

陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン(2023)

 それ以外には、数字だけ大きなアイテムを記載するような手もある。例えば課金して手に入るガチャ用アイテムを6200個もらえる! みたいな言い方をすると、一見してたくさん何かがもらえるように見える。
 実際に何が起こるかは書かないのがポイント。このような広告は古くからおこなわれている手法であり、メリットは大量のガチャを配布出来ないタイミングでも簡単に目立つ広告を作れる、という所がある。
 デメリットは意味が分からない人にとっては意味が分からないまま終わるし、冷静に見ると何がお得なのかよく分からないという印象を受けて広告としての用をなさない場合がある点。しかし10000連ガチャとかまで来るとこういうもらえるアイテムの数字で盛る手法をやるにしても中々苦しい表現をしないと難しくなってきそう。

モリノファンタジー(2023-)

 このタイプの施策で面白かったのがモリノファンタジーの2023年1月にやっていた広告で、広告においてギフトコードを入力するだけで30000万ダイヤ(3億ダイヤ)を無料で手に入れられる、というキャンペーンを行っていた事。
 そもそも30000万ダイヤという表記も字面的に派手でインパクトがあるのは間違いないのだが、この広告で主張している3億ダイヤはいわゆるガチャに使う課金石的なアイテムでは無く、キャラの強化やアイテムの購入に使用する通貨的なアイテムである。よって課金しないと手に入らないとかそういうアイテムでは無いのだが、「ダイヤ」と言われたらおそらく課金アイテムだろう、という先入観を活かした大量プレゼントキャンペーンだった。
 この時期のモリノファンタジーで引けるガチャは無料200連止まりだったが、2023年1月環境ならまだ多い方に属していたのもポイント。少し遅れるとダークテイルズなどの1000連ガチャ環境に突入していたので、絶妙なタイミングで行っていたと言えるだろう。

・ガチャ広告は今後どうなっていくのか?

 ゲーム広告におけるガチャ要素は、今後も向き合い続ける必要があるだろう。
 最後に、これから残されているモバイルゲーム広告の道を紹介してこの文章の締めとしたい。

・ガチャ要素を捨てる

鈴蘭の剣(2024)

 ここまでガチャ要素ばかりを紹介してきたが、別に広告にガチャ要素を加えなければならないという訳では無い。むしろガチャ抜きでも成立しているゲームであるならば、ガチャを紹介しないのも良いだろう。
 むしろ最初に大量ガチャで勝負しようとし始めたグラブルだって2017年の話で、インフレのきっかけになった魔剣伝説も2021年なのだから、ガチャブーム自体まだ3年そこらの流行でしかない。だのに、広告では大量のガチャを告知しなければならないというのもかなり直近の固定観念だと言える。

 内容に自信があるなら無料ガチャ要素を広告せず、ゲーム内コンテンツをひたすら広告し続けるのも手だ。無期迷途はガチャ要素の紹介抜きで3分10秒の広告を配信していた時期があり、拡散する付加価値としてAmazonギフト券のプレゼントを組み合わせたような投稿を行っている。
 なお広告用の短縮抜きの本編は22分10秒という大長編に仕上がっているので、本気でゲーム内容を紹介したいのであれば広告を15秒、30秒という短時間で済ませないのも正解かもしれない。

・プレゼント要素とガチャ要素のハイブリッドを狙う

崩壊:スターレイル(2023-)

 Hoyoverse系のゲームはキャラプレゼントとガチャ紹介をバランスよく行っている印象がある。言ってもモバイルゲームの多くはガチャから逃れらないとするならば、ガチャ要素やプレゼント要素を多少紹介するのが大人の対応という考え方だろうか。
 崩壊:スターレイルの場合はストーリー進行に応じて手に入るキャラを無料で手に入るとする事で、プレゼント要素に見せてゲーム進行を促すような広告を行っていた。細かくキャラクターの性能を紹介する事によって、ゲームを継続してもらおうという意思も伝わる。

ゼンレスゾーンゼロ(2024)

 最新タイトルであるゼンレスゾーンゼロだって100回無料ガチャを紹介しているのだから、ある程度最初に配りますよ、という所を紹介出来るならした方が良いと考えているのだろう。

・ガチャインフレに乗り続ける

ちび勇者の伝説(2024)

 シンプルな話、今後もガチャインフレに乗り続ける広告も登場し続けるだろう。
 この記事を書いた時点、2024年9月最新タイトルであるちび勇者の伝説は7777連ガチャを初動から打ち出しており、順調に平均ガチャ数は増え続けている。10000連ガチャもそれほど珍しくない時代が来るのは想像に難くない。

ラストウォー(2024-)

 またこれは明らかに反則であるが、「ラストウォーは10万円もらえます!」と告知しておきながら画面端に「※この動画はイメージです。実際に実施しているキャンペーンではございません。」と記載する事で実在しないキャンペーンを告知する手口も披露していた。
 とはいえこれが規制される雰囲気も無く売上上位をキープし続けている現状を見るに、今後も「※この広告はイメージです」の一点張りであらゆる広告行為が許されるようになる未来も少なからずある。もしそうなったら平気で1億円プレゼントとか、1兆連ガチャプレゼントなど一気にインフレ率が跳ねあがる可能性も高い。
 イメージ如何で虚偽まで許されるようになるかは、今後の法規制も注視する必要があるだろう。

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