読書感想文【韓非子】韓非著
こんにちはコウカワシンです。
今回は、韓非(かんぴ)さんの著書【韓非子】から学ばせていただきます。
本書は、「人間として社会や組織との関わり方」を教えてくれる本です。
管理職やリーダーが学ぶべき内容もボリューム厚く、人間学としての危機管理も合わせて、織田信長や西郷隆盛といった各時代のリーダーに愛読されていたそうです。
韓非(かんぴ)という人
韓非(かんぴ)さん(以下、韓非)は、およそ紀元前300年前の古代中国の思想家です。
その頃は、中国において戦国時代でした。韓 ・ 魏 ・ 趙 ・ 秦 ・ 楚 ・ 斉 ・ 燕 という七国があり、韓非は韓の公子(韓王の子)でした。
公子とはいえ、生まれつき重度のきつ音だったことや王の後継筋ではなかったことから自分の意見が通らず、うつうつとした毎日を過ごされていたそうです。
しかしそのような境遇においても、自分の思想理念を書き連ねたのが、この【韓非子】なのです。
【韓非子】は韓では評価されませんでしたが、隣の国「秦」の王・政(せい)の目に留まり、「この書を書いた者に会えるなら死んでもよい」とまで言わしめたのです。
この「秦」の王・政が、のちに中国を統一した始皇帝です。
この政と会い、いずれは道が開けるのかと期待されるはずでしたが、その後の韓非は、政の片腕であり韓非とも知り合いだった李斯(りし)の陰謀により、毒殺されてしまうのです。
そんな韓非の残した【韓非子】は、現代でも通用する人間学の根幹を成し、ビジネス書としてのクオリティも高く、人材育成のテキストとして採用する企業も多いです。
【韓非子】の特徴として、韓非が師である荀子(じゅんし)から学んだ「性悪説」がベースになっています。
「性悪説」とは、人間の本性は悪であり、たゆみない努力・修養によって善の状態に達することができるとする考え方です。
なぜ韓非が提唱する「性悪説」が重要なのか?
なぜ「性悪説」で考えることが重要なのかの理由は次の通りです。
人は利によって動くから
身近な人とて安心はできないから
争いのタネは至るところにあるから
医者が患者の病が良くなれと懸命に尽くすのは情(なさけ)からではありません。利益が得られるからです。
自動車をつくる会社は誰もが金持ちになってほしいと願います。なぜなら人が金持ちにならないと自動車が売れないからです。
人を雇って仕事をしてもらう場合に、その主人が金をかけておいしい食事をつくって雇い人に食べさせたり、見合う給金を出すのも雇い人に対する愛情ではなく、彼らに良い仕事をしてもらいたいからです。
一方で雇われた人も一生懸命に働くのは、主人に対する愛からではなく、待遇面が向上すると考えるからです。
このように「人は利によって動く」のです。
人は自己の利・利益を求めて行動するということですが、利益とは金銭などの物質的な実利のほか、地位や名誉、自己満足までも含みます。
つまり、自分にとってプラスになることすべてです。韓非はそのことを古代から続く人間の本質だとしているのです。
けどこれは決して「悪」ではなく、もちろん「善」ではありません。あるがままの現実であり、利を得ようとする人間の本性なのだと説くのです。
この「人は利によって動く」ということを踏まえると、誰であっても例外ではないといえるので不思議です。
たとえば、信頼を置く部下であっても、その部下の思惑が自分の利益と違ったものであったら、それが小さなことであってもトラブルのタネになります。
あの秦王・政(せい)も韓非の処遇を巡って、第一の側近李斯(りし)の意見を聞き入れ韓非を牢に入れてしまいます。
実はこの李斯、韓非とは荀子のもとでともに学んだ間柄です。韓非のほうが自分よりも有能であると感じていたことから韓非のことが疎ましかったのです。
そしてさらに韓非を牢に入れただけではダメだと毒を飲ませて死なせてしまいます。
秦王・政は、李斯の意見で韓非を牢に入れたのを思い直し、韓非を牢から出そうとしましたが、時すでに遅かったということです。
その後の秦王・政がどう思ったかはわかりませんが、「身近な人とて安心はできない」ということがいえますね。
そしてこれは、「争いのタネは至るところにある」ということでもあります。
晋の孤突(ことつ)という人がこう言いました。「君主が女色を好むと太子の地位が危うくなる。一方、君主が男色を好むと、宰相の地位が危うくなる」
これは、「君主が女色好き→相手の女が自分の子を跡継ぎにしたがる→太子の地位は不安定になる」「君主が男色好き→相手の男が高い地位を望む→宰相の地位は不安定になる」ということです。
先ほどの李斯の話もそうですが、人は自分の利益のために動くので、思わぬところで足元をすくわれることがあるのです。
ですので、人の行動は自分中心であり、最初から「性悪説」を頭に叩き込み、警戒して物事にあたることが必要なのでしょう。
本書は自分に降りかかる火の粉、つまりは「危機管理」を学ぶに最適な一冊だということです。
危機管理を整えるには何が必要か?
自分に降りかかる火の粉をふり払うには、まず自分がしっかり自立することが大事です。
それには次のようなことが言えるでしょう。
約束事の厳守
人心を操る術
無意識でも物事が回るシステム
危機管理を整えるためにまず意識することは、「約束事の厳守」です。
ごく基本的なことですが、とても大事なことで、約束を破れば信用は失墜し、人間関係も壊れます。
たとえ、自分の子どもや気のおけない親しい友人との間の冗談半分の約束事でも必ず守るという意識を持つべきです。
「人心を操る術」を持つことは大きな武器になります。
相手の心を読み、相手の心理状態に合わせるコントロール術は、「人は利によって動く」「人を信じればその人に制せられる」という人間不信の哲学から生み出されたものですが、これを逆に利用する側に回るのです。
そこには情というものが入り込む余地はありません。冷酷ともいえますが、人間関係や組織をスムーズに保つためには、この冷酷さに徹することも必要なのです。
「無意識でも物事が回るシステム」は、かなり脳のリソースを緩和してくれます。
今では仕組み化という「特定の人に依存するのではなく、いつ、どこで、誰が行っても、同じ結果を再現できる状態を構築すること」を考える有益性が見直されています。
「この人がいなければ物事が進まない」「あの人いないと高い成果が期待できない」という事態を避けるためにも、組織を運営するためのシステムや、物事を推進していくための装置が必要なのです。
そうすることによって、組織を安定的に運営し、物事を円滑に推進し、誰もが迷いのない行動がとれるようになるのです。
スムーズな組織運営をするためにリーダーはどのように行動するべきか?
とくにリーダーのあるべき姿ですが、一個人としても大事な心得は次の通りです。
相手の心理状態に合わせる
小さな利益にとらわれない
ホーム(本拠地)を留守にしない
「相手の心理状態に合わせる」ことはとても大切です。
君主は君主の立場から、臣下は臣下の立場から目の前の相手の心理状態を読み取り、それに合わせることは人心掌握術の要となります。
今でいえば上司と部下の関係ということですが、それ以外の関係性にしても「自分に関心を寄せてくれる」ことはとてもうれしいものです。
良い人間関係こそが、良い組織をつくっていくものです。そのうえで、守るべきものは守るということは忘れてはいけません。
それが【韓非子】では「法を守る」ということです。そのためには、誰もが公平無私でなければいけないのです。
これは「小さな利益にとらわれない」ということにもつながります。
ある国の王が、攻略する国を攻撃しやすくするために通過点にある国の王に馬を4頭を贈り「道を貸してほしい」と頼みました。
その通過点の国の王はその贈り物に喜んで、「それは何かのたくらみだ」と考える臣下に止められたにも関わらず、道を貸してしまいます。
この臣下は、「あの王が攻略する国は、わが国にとって持ちつ持たれつの国です。その国が攻略されてしまったら、わが国も滅ぼされてしまいます。決してお受けになってはいけません」と進言したのです。
ですが、王は目の前の小さな利益に目がくらみ、やすやすと道を貸してしまったのです。
その結果、ある国の王は攻略したかった国と通過点の国、通過点の国の王に贈った馬まで手に入れることができたのです。
これを考えると、「いったい相手が何を考えているのか」という心理状態を読むことの重要さが見えてきますし、目先の利益にとらわれ大きな損害をこうむることの重大さをヒシヒシと感じることでしょう。
「軒を貸して母屋を取られる」ということわざがありますが、まさにその通りで、自分の身やその周りは自分で用心し守らなければなりません。
そのためにも「ホーム(本拠地)を留守にしない」という意識は必ず持ちましょう。
古代中国の戦国時代は群雄割拠であり、本拠地を留守にしていたら他国に乗っ取られるということが多々ありました。
日本の戦国時代でもそうであったし、現在でも我が国の固有領土である尖閣諸島に対しての他国の領海侵犯を海上保安庁が日夜阻止して乗っ取りを防いでいます。
それは組織や個人レベルでも同じであり、トップ不在では組織が乱れますし、家庭をおろそかにしていては家族の心が離れていくということです。
そのためにもリーダーは、部下・メンバー、家族の意見を聞き、よいものであれば取り入れていくという姿勢を常に持ちたいものです。
まだまだ学ぶべきことが盛りだくさんの【韓非子】ですが、人間というものは欲深いものであるということを肝に銘じるためにもぜひ読んでおきたい一冊だと感じました。
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