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100日後に死ぬ父。98日目。

 今日は伯父さんと電話で話をした。僕はまず伯父さんに謝り、後日祖父にも謝りに行くことを伝えると、伯父さんは「すべてアイツが悪いのだから、謝る必要はない」と言った。僕はそんなアイツの息子なので、なんだか僕も怒られているように感じた。
 僕にはまだ父に対して怒りの感情が芽生えてなかった。どちらかというと悲しい気持ちばかりが増えて、これからどうやって父と接すればいいのか分からなかった。もしかすると、僕は連帯責任のような気持ちになっているのかもしれない。伯父さんはお金のことは気にしなくていいと言ってくれたけれど、父のことを止められなかった僕ら家族にも責任はあるんじゃないだろうか。伯父さんだってきっと僕らに対しても少なからず腹を立てているに違いないのである。
 お金のことについて、伯父さんと母で明日父に直接話を聞くことになった。もしかすると、まだ僕らが知らない事実が出てくるかもしれないし、ここで父を止めなければ、僕ら家族はいよいよ崩壊する。
 いつもなら父に対して怒る母も、今回ばかりはことが大きすぎて力が抜けた状態だった。とにかく伯父さんと祖父に合わせる顔が無いと言って、「ほんとにバカな人」と力なく何度も呟いていた。
 僕は伯父さんとの会話で「最低な事をした父だけれど、そこまで怒らないで欲しい」と言った。そんなことを言える立場ではないことは分かっているけれど、僕は今回のことで、父が壊れてしまわないか心配していた。
 隠れて借金をしていたことを告白し、母と離婚寸前までの話し合いをし、これからの生活改善に真面目に取り組んでいるところに、2000万円の話を問い詰められる父のことを考えると、僕はとても怖かった。
 静かな病院の個室で、伯父さんと母に問い詰められている父を想像すると、僕は可哀想でしょうがなかった。2000万円も使いこんだ父に対して、可哀想と思う僕の考えはおかしいのだろうか。僕もここで父に対して怒るべきなんだろうか。もう何が何だか僕は自分の気持ちが分からなかった。
 上手く考えがまとまらないまま、僕は母にも「そこまで怒らないで欲しい」と伝えた。母は僕の意見を否定するかと思ったけれど、驚いたことに母も僕と同じ考えだった。母もこれ以上父に衝撃を与えることに対して、「怖い」と思っていた。
 僕も母も、「怖い」という言葉の中身は口には出せなかった。
 そのくらい、僕らは怖かった。

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