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100日後に死ぬ父。86日目。

 今朝、父のテンションはとても低かった。昨日の夜はあれだけ怒っていたので、今日は朝から機嫌が悪いと思っていたけれど、それとは正反対に父は気分が落ち込んでいる様子であった。話しかけても短く返事をするだけで、怒ってはいないけれど、いつもと様子が違っているのは明らかだった。
 はじめは明日病院に行くことが嫌なのだと思ったけれど、これまでそんな様子を全く見せていなかったので、やはり昨日の夜に出掛けた先で何かがあったと考えるのが自然だった。
 
 父のテンションが低かった理由は、夕方ごろに分かった。
 夕方、父は母の部屋に行って土下座をした。そして自分が隠れて消費者金融から、150万円の借金をしていると打ち明けたのである。
 父が勝手に消費者金融からお金を借りるのは過去にも何度かあり、そのたびに母と父は離婚寸前の話し合いを続けてきた。前回は「次に借金をしたら離婚する」という約束で話し合いが終わったので、今回の借金が発覚した瞬間、僕は父と母が離婚することを覚悟した。
 父が借りたお金は、ほとんどがギャンブルと飲み代に消えていた。見栄を張って若い子と飲む時は奢ったりするのを続けたせいで、お店へのツケも増え続け、結局消費者金融から借金をすることになったということだった。こうなることを避けるために、僕が父にお金を貸したりもしていたのに、結局父は他でもお金を借りていたのである。しかもまだ何軒かの飲み屋のツケを払いきれていないらしく、父は色々な人に迷惑を掛けていることが次々に判明した。
 父が最初に頼ったのはお爺ちゃんだった。そのために父はお爺ちゃんの家に通い詰めて、なんとかお金を貸して欲しいと頼みに行っていたらしかった。けれどそれが伯父さんの耳に入ったらしく、最近はお爺ちゃんの家で、伯父さんを交えた話し合いをしていたらしかった(たぶん話し合いというよりは説教に近いと思うけれど)。
 昨日の夜の話し合いでは、お爺ちゃんではなく伯父さんがお金を払うと言ったのだけれど、伯父さんが嫌いな父はそれだけは絶対に嫌だと主張した。伯父さんの方はお爺ちゃんに借りることは絶対にさせないと主張し、話し合いは何も進むことはなかった。そうして誰にも頼れないと分かった父は、ようやく僕と母に打ち明けることを決めたということだった。

 父の話を聞いて、母は呆れながら静かに怒った。とにかくお店のツケをどうにかしないといけないし、借金だって返さないといけない。父は僕にも借金していることも打ち明けたらしく、母はまず僕にお金を渡した。僕は「べつにいいから」と言ったけれど、母が納得しないので受け取るしかなかった。
 今、我が家にはお金が必要なはずなのに、僕の手元にお金がくるのがとても心苦しい。 

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