100日後に死ぬ父。54日目。

 夕方、父がアニメのキャラクターのコスプレをして、僕の部屋に入ってきた。黒い眼帯に黒いコートを着て、白髪のカツラを被り、片目にはいつものカラーコンタクトを付けていた。父は部屋に入ってくると、僕に「どう?」と言った。どうもこうも突然父親のコスプレを見せられて、息子としては何を言えばいいのか僕には分からなかった。
 話を聞くと、今日は父の行きつけのバーでコスプレパーティーがあるらしく、コスプレをしてきた人には色々とサービスがあるとのことだった。父は変なところで凝り性な性格なので、衣装もカツラもネット通販で良いものを買ったようだった。
 僕が「まあ、いいんじゃない?」と答えると、父は満足したようで、そのまま家を出ていこうとした。僕は急いで父を止めて、まさかその姿で行くのかと聞くと、父は「そうだ」と言った。ハンドルが二つある自転車で、近所を走り回るのはギリギリ許せたが、ハロウィンでもないのにコスプレをしたまま外を出歩くのはさすがに許せなかった。飲み屋で着替えたらどうかと説得したけれど、父はめんどくさいから嫌だとわがままを言う。
 仕方がないので、結局僕は車で父を送ることした。助手席にコスプレをしたオッサンを乗せて運転していると、僕はいったい何をしているのかと自問自答したくなった。お店に着くと、父と同じくコスプレをした人が飲み屋の前に溢れていた。僕は車からアニメのキャラクターを降ろして、息子とバレないようにすぐに家へと帰った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?