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100日後に死ぬ父。97日目。

 夕方に仕事を終えて家に帰ると、ちょうど母もどこかから帰ってきたところで、夕ご飯の準備はまだできていないままだった。冷蔵庫の中を見ると、すぐに食べられそうなものが無かったので、今夜は外で何か買いに行こうか考えていると、母から「話したいことがあるから座って欲しい」と言われた。母が何を話すのかはわからなかったけれど、雰囲気から察するに、なにか悪い話なのは明らかだった。
 
 悪い話は、やはり父のことだった。
 今日母が伯父さんの家に行くと、父に関するある事実を知らされた。それは、以前から父が祖父の貯金からお金を引き出しているという話だった。その額がなんと約1500万円もの大金で、すでに祖父の貯金はほとんど残っていなかった。祖父には「自営業で新しい機械が必要だから助けて欲しい」「自営業の経営が苦しいから助けて欲しい」などと理由を付けて、父は長い歳月をかけて貯金を徐々に食いつぶしていった。祖父は父に甘く、ほっとけない人なので、伯父さんにも内緒で父にお金を渡し続けていた。その貯金は本来、伯父さんの子供達にわたるものなのに、父の身勝手な行動ですべて使い果たしてしまった。
 さらに父は伯父さんにもお金を借りていたことも聞かされた。祖父に言ったような理由を伯父さんにも言い、最大で約50万円を渡したこともあったという。自営業が苦しいことは確かだけれど、実際は祖父や伯父さんにお金を借りるほど苦しくはなかった。父がそんな大金を借りていたという話は、母も僕も初耳で、伯父さんの方では僕らからお礼の一言もないので怪しいと思っていたらしかった。
 そして父は僕や母にも嘘をついてお金を得ていたことも判明した。以前、伯父さんの娘が引っ越すということで、父が家具をプレゼントすると言って母からお金を貰ったことがあった。けれど伯父さんの話によると家具をプレゼントされたことはなく、あれも父の嘘だと言うことがわかった。母の方もお礼の一言もないので怪しんでいて、僕ら親戚同士がいまいち仲良くなれないのは、そういった原因もあったのかもしれなかった。父が親戚同士を集まらせなかったのも、様々な矛盾が発覚することを恐れてのことだったのかもしれない。
 母と伯父さんは、父の嘘の答え合わせをするように、父とお金に関する話をした。そうしてざっと計算しただけでも、父は家族から約2000万円以上のお金を、嘘をついて得ていたことがわかったのである。
 母からすべての話を聞き終わると、僕は頭の中でまだ整理が追い付かず、ただ驚くことしか出来なかった。隠れて借金をしていたことが小さな出来事に思えるほど、父は裏でもっとひどい事をしていたのである。
 僕はこれまで父と一緒に暮らしてきて、自分なりに父を理解し、父の変わることのない印象が脳に染みついていた。けれど母の話を聞いた後、僕は急に父が知らない人のように思えてしまった。あまりにも嘘が多すぎて、僕は父の何を知っていたのかが分からなくなってしまったのである。
 母も僕も、不思議と「怒り」という感情はなかったと思う。ただただ父のことがもう何もかも分からなくなり、これからどうしたらいいのかも考えられなかった。

 ベッドに入って眠るときまで、僕は父のことばかり考えていた。けれど考え続けたところで何も答えはでなかった。今日の夕ご飯に何を食べたのかさえもすでに忘れ、頭の中は真っ白なままだった。

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