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100日後に死ぬ父。88日目。

 昨日、父と母の間でどんな話し合いが行われたのかは分からないけれど、とにかく二人は離婚しなかった。もちろん父が許されたということはなく、ただ離婚はしないということ以外は、二人の様子は昨日と何も変わってはいなかった。父は静かに落ち込み、母は静かに怒っている。父と母の険悪なムードには慣れているはずだったけれど、今回はこれまでと比べ物にならないくらいに最悪な状態だった。
 今日は父の声を一度も聴くことはなかった。それほど父は静かに過ごし、夕ご飯を食べ終わると直ぐに部屋に戻って眠った。
 今日の父は寝るのも静かだった。いつも大きないびきをかいて寝ているのに、今日は部屋の前を通っても何も聞こえなかった。ドアの隙間から明かりは漏れていなかったので、電気を消しているのは確かだった。けれどドアの向こうはシンと静まりかえって、物音ひとつ聞こえない。
 たぶん父はまだ眠れていないのかもしれない。暗い天井を眺めて、ここ最近のことを考えているのかもしれなかった。

 母が100点満点の怒り方をしているので、僕はそれに圧倒されてあまり怒っていない。本来なら怒るべきなのだけれど、これ以上父に負担をかけると本当に死んでしまいそうなので、僕はもう怒れなかった。父は自分勝手に生きているくせに、とても精神的に弱い。落ち込む時は徹底的に落ち込むので、見ているだけでこちらも気分が滅入ってくる。
 僕は父の落ち込んでいる姿を見るのが苦しかった。自業自得とはいえ、父親が怒られて小さくなっている姿を、子供は見るべきではない。

 病院には明日行くことになった。借金騒動で病院に行く日が遅れてしまったが、これでようやく父の糖尿病治療が始まる。

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