100日後に死ぬ父。69日目。

　父は蛇革が好きである。ヤクザっぽい見た目なので、蛇革のアイテムを持っているとさらに雰囲気が増す。母との新婚旅行で行ったハワイでも、白蛇の剥製を買ったほどで、母は新婚旅行でも父に呆れてしまったという。けれど父が本物の蛇革のものが買えるはずもなく、持っているのはほとんど偽者の蛇革シールで加工したものである。
　父は蛇革シールを色んなものに貼っている。ジッポライターに煙草ケース、名刺入れにスマホケースなどなど、父はシールが貼れるものには何でも貼っていた。電子タバコの本体にも蛇革シールを貼り付けていて、父の持ち物は蛇革ばかりである。
　バッグやベルトも、蛇柄のものがあると迷わず買っていた。けれど不思議なことに財布だけは蛇柄ではなかった。しっかりと理由を聞いてはいないけれど、父の中では財布は黄色のものを買うと決めているのである。たぶん風水的な理由からだと思うけれど、父の黄色の財布の中にお金が溜まっているところを見たことはない。
　父は意外と風水に関しては信頼しているところがある。たぶん物を置いたり所持するだけで、運気が上がるというのが楽だからと思う。何かを習慣づけることが苦手な父にとっては、努力の必要のない風水はとてもお手軽なのである。