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100日後に死ぬ父。70日目。

 最近父は番傘にハマっている。出かける日に雨が降っていると、父は番傘を差して出かけていく。田舎とはいえ、番傘を持ち歩いている人は珍しく、行き交う人は父の番傘をチラりと見る。そうしたことで目立つことが嫌いではない父なので、もしかすると目立ちたいがために番傘を使っているのかもしれない。
 父は自転車のように、番傘も自分で改造している。改造といっても、蛇柄のシールを貼ったり、色を塗ったりするだけなのだけれど、僕的には元のままのほうがカッコイイと思う。父は余計に飾りすぎてしまう癖があるので、何かを作ると全体的にごちゃごちゃしているように見える。
 父はいつも塗装にはスプレーを使う。創作意欲はあるのにめんどくさがりな性格なので、刷毛でちまちまと塗ったりするのは嫌いなのだ。そのせいで作業場にはスプレー缶が散乱していて、どれが空のスプレーかもわからなくなっている。
 スプレー缶というのは捨てる時に穴を開けて、中のガスを出さないといけない。空のスプレー缶に穴を開けると、残っている塗料が穴から噴き出すので、処理する時には注意が必要である。
 穴を開ける作業はいつも僕と母がしていた。父が使ったものだけれど、今まで父が穴を開けたスプレー缶は一つもなかった。僕らが時間を見つけてスプレー缶の処理をしてあげても、父は「ありがとう」の一言もない。
 今日仕事場をのぞくと、先週片づけたところにまたスプレー缶が置かれていた。どうやらまた買ってきたようである。
 よくもまあそんなに塗るものがあるものだ。

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