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100日後に死ぬ父。46日目。

 今日は宣言通り、父は仕事をしていた。足の痛みも引いたみたいで、杖を使わないで歩いていた。痛みが引き、医者に行かずに済んだので、父はいつもよりも気分がよさそうだった。朝から鼻歌交じりに仕事をしていて、僕らの心配はもう忘れているようだった。

 今日の夕ご飯は秋刀魚だった。
 父は魚を食べるがとても綺麗である。秋刀魚の場合は、後に残るのは頭と骨のみで、他には何も残らない。お皿には汚れもなく、細かな食べ跡もほとんどない。それはまるで秋刀魚の身だけが蒸発したように見えるほどで、ある意味芸術的でもあった。
 僕がこれまで実際に見た中では、父よりも魚を綺麗に食べる人は見たことがない。普段はおおざっぱな人だけれど、変なところでは几帳面なのである。
 それと父は歯がボロボロなくせに、ちゃんと物をよく噛んで食べる。特に外食の時は人の目があるからなのか、噛む回数はさらに増える。ちゃんと噛むのなら、もっと歯を大切にして欲しいのだけれど、父は歯科医院も嫌いなので、歯はどんどん悪くなる一方である。
 歯がボロボロなのに、父から「歯が痛い」という言葉を聞いたことがない。痛いのを我慢しているのか慣れてしまったのか、それとももう痛みすら感じないくらいにボロボロになっているのかもしれない。

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