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100日後に死ぬ父。96日目。

 今日も糖尿病の授業があり、母は午前中に病院へ行った。僕は仕事が休みだったので、居間のソファで横になって読書をして過ごした。三十ページほど読み進めたところで僕はうとうとしはじめて、今日の夕ご飯は何を食べようか考えながら、いつの間にか眠りについた。

 昼過ぎ、病院から帰ってきた母に起こされた。同時に父の声が聞こえたので驚いて起き上がると、やはり家に父が居た。どうして家に居るのかを聞くと、いろいろと必要な物を取りに一時的な帰宅の許可を貰えたとのことだった。久しぶりに父が家に居るのは新鮮で、父もどこか嬉しそうである。
 父は自分の部屋で色々と荷物をまとめ終わると、すぐに病院には戻らないで、煙草を吸いながらテレビを見ていた。病院では煙草を吸うことがほとんど出来なかったようで、父はとても美味そうに煙を吸いこんでいた。煙草も健康には悪いけれど、食事制限を努力している父に、煙草も制限させることは今後無理だと思った。
 父は三時間ほど家で過ごすと、荷物を持って病院へと戻っていった。母が車で送っていこうとしたけれど、父は「運動がてら歩いて戻る」と言って出ていった。母に遠慮したのか、本当に運動がしたいのかは分からないけれど、以前の父だったら歩いて行くことはしなかったと思う。病院で規則正しい生活をしたことで、父の性格も少しは変わりつつあるのかもしれなかった。それがたとえ一時的なことであっても、父にとっては十分な進歩である。
 今日は母も機嫌が良く、父ともわりと普通に話していたので、僕は久しぶりにホッとした気分だった。

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