見出し画像

100日後に死ぬ父。55日目。

 普段読書をしない父でも、たまには本を買うことがある。買う本はだいたいビジネス書ばかりで、小説を買っているところは見たことがない。歴史が好きなのだから歴史小説でも読めばいいのだけれど、ジッとして文章を読むことが出来ない父には難しいようである。
 父の買うビジネス書は、相手の心理を探るような本ばかりだった。父の小さな本棚をみてみると、「ヤクザは人を5秒で9割見抜く」「話を聞かない男、地図が読めない女」などが並んでいる。サラリーマンでもない父がこうした本を読むのは、おそらく飲みの席で役立たせる為である。飲み屋の若い女の子の心理を読み解いて、もっと気に入られたいいのだ。
 けれど父がこれらの本を読んで、そこに書いてあることを実行できているかはあやしい。父はいつも飲み屋では自分の話ばかりするので、それを聞いている相手が楽しいとは思えないのである。ビジネス書に書いてあることを実際に実行できる人は少ないと思うけれど、父は本当に読んでいるのかと疑いたくなるほど、書いてあることを何も実行できていない。その証拠に、小さな本棚の本はどれも帯がついたまま、とても綺麗な状態で埃をかぶっている。父が読書をしている姿も見たことがないので、もしかすると本当に読んでいないのかもしれない。
 今日も父が珍しく本を買ってきた。買ってきた本のタイトルは「この人はなぜ、自分の話ばかりするのか」だった。これは相手を知る為に買ったのだろうか。それと自分を知る為に買ったのだろうか。どちらにしても、買った本はちゃんと読んで欲しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?