100日後に死ぬ父。21日目。

 父は本を読むのが苦手で、それとは対照的に僕は読書が好きだった。僕の部屋は壁一面が本棚になっていて、いったい自分が何冊持っているはもう分からなくなっていた。

 父と母は先ほどまでお隣さんのお爺ちゃんの葬式に行っていた。だから昨日に引き続き、今日の夕ご飯の話題もほとんどがお爺ちゃんについてだった。
 父の話では、葬式で印象的だったのは、お爺ちゃんのお孫さんの存在だったらしい。お孫さんは高校三年生で、学生服で参列していたらしいのだけれど、その表情はとても怒っているような感だったらしいのだ。もともとそんなに笑ったところを見せない彼だったが、今日は明らかに怒っている表情だったらしい。もしかすると泣かないように我慢している表情だったかもしれないけれど、父はそのことが気になって、葬式の間ずっとお孫さんを見て過ごしてした。母も父と同じことが気になっていたらしく、父ほどではないけれどお孫さんを見ていたらしい。
 もしかすると彼は本当に怒っていたのかもしれない。初めて身内の死を経験して、その気持ちの処理の仕方が怒りの方に向いていたのかもしれない。僕はその表情を見ていないからなんとも言えないけれど、二人が言うのだからたぶん本当に怒っていたんだと思う。
 ひととおり葬式の話が終わると、話題は僕ら家族の未来についての話になった。
 母は絶対に父より長生きがしたいのだと言った。自分が死んだ後に、僕一人で父の面倒を見させるのが可哀想とのことだった。父はその意見に賛成のようで、普段から母と僕に色々と頼ってばかりなのを自覚しているようである。
 父は自分が死んだ後のことは、ちゃんと遺言書に書いていると言った。その遺言書は今自分の部屋にあるらしく、毎年内容を書き直して更新しているのだという。そして驚いたことに、その遺言書を僕の部屋の本棚に隠しておきたいなどと言い出した。その方がサプライズ感があるとのことだが、すでに僕に聞かれているのでサプライズもクソもない。それに僕がその遺言書を、父が生きている間に見つける可能性は非常に高い。
 冗談で言っているのか、それとも真面目に言っているのかが分からなかったので、僕は「それは辞めてくれ!」と強めに言っておいた。父は「わかった、わかった」と言ったが、本当に分かったのかは定かではない。

 

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