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「このサイテーな世界の終わり」文章デッサン。

 学校へ行く間も、食堂で昼食を食べている間も、僕はヘッドホンで音楽を聴いている。そうしていると誰も僕に話しかけてこない。だから僕は音楽を聴いているとひとりになれた。女の子のうるさいお喋りも、目の前で男の子が頭を叩かれてスナックを取られても、音楽を聴いているだけで遠い風景に見える。
 僕は八歳の時に笑うのが苦手だと気付いた。対照的に父さんはいつもバカみたいに笑っていた。父さんは僕にバカみたいなジョークを言って、自分でバカみたいに笑っていた。そういう時はずっと父さんの顔を殴りたいと思っていた。
 九歳の時、父さんが通販で揚げ物機を買った。ある日父さんが揚げ物機から目を離した隙に、僕は煮えたぎった揚げ物機の中に左手を入れてみた。熱さよりも痛みが強くて、象に手を踏まれたかと思った。どうして揚げ物機に手を入れたのかは覚えていない。たぶん、何かを感じたかったんだと思う。
 左手は今も火傷の痕が残っていて、まるでゾンビみたいだった。隠さずに堂々と左手を見せていると、不思議と誰も火傷の痕について聞いてこなかった。
 十五歳の時、近所の飼い猫を茂みに連れて行った。名前は知らない。茂みの中で僕は持っていたナイフで猫の首を切り裂いた。小さい体からは思った以上の血が流れはじめて、それは思ったよりも温かかった。それからというもの、僕はまた何かを殺したいと思い、様々な動物を殺し始めた。兎や鼠、ヒヨコにカラス、ハリネズミやコウモリ、蝶やトンボも殺した。今まで殺した動物は一匹残らず覚えている。同じ品種の蝶でも大きさや模様に違いがあった。だから本当に一匹残らず覚えている。
 学校は退屈だけれど、もっと大きな生き物を殺す為に、品定めをしに行っていた。僕の頭はあきらかにもっと大きな刺激を求めていた。人を殺したら次は象を殺すかもしれない。今日も食堂に集まってる生徒を眺めながら、誰にしようか考えていた。
 丁度その時、目の前に女の子が立って僕を見ていた。わりと可愛い子だったけれど、あまり見かけたことがない印象だった。彼女は僕を見つめているんじゃなくて、ただじっと眺めている感じだった。何か言いたそうな顔をしていたから、僕はヘッドホンを取って「やあ」と言ってみた。
「スケボーやってたね」
 彼女がそう言ったので、僕はなんと返事しようか考えていると、続けて彼女は「へたくそ」と言った。彼女は怒っているのか、元々そういう顔なのか判断できない表情だった。知らない子に話掛けられたのは初めてだ。
 僕は「うるさい」とだけ言って、頭の中で彼女の喉にナイフを刺すところを想像した。血が飛び散り、周りのみんなが叫び出す。
 想像の中の彼女は血だらけになっても無表情だった。ただ僕を眺めているように。
 僕はジェームズ。
 十七歳。
 間違いなくサイコパスだ。

Netflixオリジナル海外ドラマ「このサイテーな世界の終わり」
https://www.youtube.com/watch?v=OSaZc7cKc9Q

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