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短編小説「“普通”って」

“普通” とは何だろうか。

人は皆、自分が悪目立ちするようなことを極端に嫌う。

近年は、個人を大切に、個性を大切に、という風潮もあるが、実際にはそれも、大衆の認識の範囲内でなければ煙たがられる。

義務教育は、その最たる例である。
“普通”であることを強要され、集団では“普通”でなければ関わることも許されない。
“普通“の人生を学ぶだけの、つまらない義務だ。

時に、それすらも学ぶことができないこともある。

僕は友達がいない。
正確には、友達がいなくなった。

なんでも僕は、ギフテッドというやつらしい。

昔から、知るという行為が楽しくて仕方なかった。
分からないことはすぐに調べ、知識をつけていった。

だから、学校で学ぶことは何もなかった。
簡単なことばかり聞かされる、つまらない日々だった。

そんな僕も小学生の時は多くの友達がいた。
先生は僕をたくさん褒めてくれるし、なんでも簡単にやってのける僕はクラスだけでなく、学年でもかなりの人気者だった。

だが、中学生になって、生活は一変した。

学校の授業はつまらなかったが、先生は僕をかなり評価してくれた。
先生だけが話を理解してくれたので、僕はよく先生に話しかけに行っていた。

だから、僕は先生が特段好きなわけでもなかったが、嫌いでもなかった。

しかし、多くの生徒は先生を嫌うものらしい。
反抗期なのか、指導者に反抗する自分に酔っているのかはわからないが、それが中学生の“普通”だった。


ある日、僕はその"普通" から完全に外された。

『なぁ』

クラスメイトが話しかけてきた。

「何?」

『お前、いつも一人で本読んでるよな。何考えてるかもわかんねぇし。どうせ俺たちを下に見てんだろ』

「全然そんなことないけど…」

『あと、教師のやつらに媚び売りやがってよ。だせぇんだよ、キモイんだよ!』

僕は呆気にとられて何も言えなかった。

教師に媚び売る奴のレッテルを張られた僕は、その日から一人ぼっちになった。

教室は地獄と化した。

もう誰も話しかけてこない。
むしろ、僕に近づく者さえいなくなった。

僕は次第に学校へ行かなくなった。

部屋に閉じこもり、本を読むことだけが唯一の慰めだった。
でも、知識を得る喜びさえ、徐々に薄れていった。

今の僕はもう“普通”ではないのかもしれない。

“普通“ を演じなければ “普通” に生きられない。
果たしてそれは “普通“ なのだろうか。

“普通”ってなんだろう。
“普通“でない僕には、もうわからない。


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