見出し画像

地方で出版社をつくる【其の一】

(この記事は静岡のフリーランスグループえでぃしずのコラムサイト(2019年7月20日付)からの転載です)

ここ朝霧高原(富士宮市)に移住して三年目の夏。最近は日本一標高の高い極小出版社と名乗って活動している。クレームはまだない。本当に一番高いのか、単に気づかれていないだけなのかはわからない。

当初、出版社と名乗るのは気が引けた。これまで長らく出版社にいたこともなければ、毎年本をたくさん出せるわけでも何千部すら印刷する予算もなく、出版以外のこと、例えばDVDを作ったりTシャツを出したりしてるほうがむしろ多いからだ。

がしかし。最近は書店に雑貨が売っているのが当たり前の時代。うちが作っているつげ義春さんの公式グッズは最近書店で取り扱っていただくことが増えている。だから、書店で扱うものを作るところが出版社と名乗っても差し支えないだろうというわけである。

そもそも出版社ってそんなに簡単に作れるの? と思った方もいらっしゃるだろう。日本図書コード管理センターに出版者登録をして(「社」でなく「者」とあるように法人個人は問わない。わたしは個人登録)、ISBNコード(本の裏にあるあのバーコード)を有料で発行してもらう。それだけなのである。

もちろん、作った本を取次会社(卸問屋)を通じて全国の書店に流通させることや、世間的に出版社と認めてもらえるかはまた別の話だけども、少なくとも出版社と公言はできる。そして、最近は直取引と言って、取次会社を通さずに出版社と書店とが直接取引をするケースも少なくない。かつてはほとんどなかったようだが、いまや直取引のみの人気書店すらあるし、ISBNコードがない「リトルプレス」や「ZINE(ジン)」を積極的に扱う書店も増えている。今、続々と〝ひとり出版社〟や小さな個性的な書店が誕生しているが、作り手(作家・編集者)の想いや伝え手(書店)の想いを、しかるべき読み手(読者)に伝えるのに、大きな組織やバーコードはもう必須ではないのかもしれない。

わたしみたいな山暮らしの人間が出版社を名乗れる時代、わたしみたいな独学の個人でも簡単に本が作れる時代、(自分が作った本が売れないという悲劇はあろうとも)なんと幸せな時代に生きてるんだろうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?