07 最初で最後の夏
けれどそう思っているのは相手も同じだ。勝ちたいのは自分たちだけじゃない。この闘争心が心地よい。面白くてしかたなかった。
ポジションを戻す。ホイッスルが鳴る。高橋はボールを高くトスし、ジャンプサーブを打ち込んだ。
コースは相手コートレフト側。コースが乱れたようにも見えた。ライン際ぎりぎりで落ちたボールだが、ジャッジの判定はイン。
これで十四対十二。二点差がついた。
「この調子!」
二点差以上つけられない。二点の点差が開けば東若松は猛追して追い上げる。その流れを断ち切るにはここで五点差はつけたい。最終セットの五点差リードは、心理的なプレッシャーを与える。先に二十点台に到達した方が、精神的な優位に立てるだろう。
ポジションを戻す。ホイッスルが鳴ると同時に高橋がトスを上げる。ジャンプサーブだ。今度こそ見送って落とすなんてマネはしないと、相手コートが殺気立っている。けれども重い球威のサーブを拾っても、体勢が崩される。
けれどレシーブをつないだ。セッターにボールがあがる。ここは相手に決めさせたくない。もうそろそろこの攻防には飽きた。点差をつけたい。
Cクイックとバックアタック、両方の軌道だ。だが今の間ではクイックは無理だ。
大森はブロックに飛んだ。タイミングがぴったりのシャットアウト。ボールは相手コートの真下に落ちた。
十五対十二。このセットで初めて三点差をつけた。
「大森先輩最高!」
拳を固めて攻撃が決まったことに喜んでいる大森に声をかけると、白い歯を見せて顔をくしゃくしゃにして笑いかけてきた。
「若森一人じゃイカせねぇぞ!」
「あぁん、そんな激しいです、先輩って、まだ引っ張るんすか、それ……」
どうやら最後までそのネタでいじられそうだ。
この調子で試合の最後まで言われるのかもしれないなと思うと、思わず光広に苦笑がこぼれる。
ポジションに戻るとホイッスルが鳴った。高橋はこれで四度目のサーブだ。
ジャンプサーブは当然強打で、簡単には拾えない。だが向こうもそう読んで、レセプションを下げて対応する。後衛できっちりとレシーブして、セッターにボールが返る。速攻で来ると光広は思った。案の定、相手セッターはバックトスでCクイックの軌道のトスを上げる。こちらのブロックの反応が遅れボールがコート中央に落ちた。
これでせっかく開いた三点差が、再び追い詰められ十五対十三になる。
こちらは下がっていたリベロの富士が後衛に入り、ミドルブロッカーの高橋が外れた。
サーブがようやく交代する。今度は東若松学園のサーブだ。
フローターサーブを打ってきた。ボールはコート中央に落ち、ウィングスパイカーの山内が後衛で拾う。
「あっ!」
しかしボールはセッターポジションについた光広には返らなかった。フローターサーブの怖いところはこれだ。狙った位置への返球ができない。ボールはライト後方へ飛ぶ。
復帰したばかりのリベロの富士がダイビングレシーブでボールをつなぐ。低すぎる。これでは誰も打てないと判断した光広は、アンダーハンドレシーブで相手コートへボールを返した。
「くそっ!」
東若松学園のチャンスボールだ。レフト後衛に戻ったボールは丁寧に拾い上げられてセッターへ返る。Aクイックのコンビネーション。どちらが打つのか読み切れない。
大森と加藤がブロックに飛んだ。ボールは加藤の指先をかすめる。
落としてなるものかと山内がレシーブに出るが、ボールはうまく拾えずに床に落ちた。
また点差が詰め寄られる。これで十五対十四。
すんなり勝たせてはくれない。さすがは去年の準優勝校。
「……だから、それがなんだ」
光広はそう呟いた。そんなことは関係ない。監督が言っていた。自分たちは勝つためにここに来た。相手が強いことなんて百も承知だ。弱い相手に勝つのは当然だ。強い相手だから勝ちたい。打ち負かしたい。自分たちの実力がその上なのだと見せつけたい。
光広にとってこのインターハイは最後のインターハイ。金剛高校の男子バレー部の一員として参加できる最初で最後の夏なのだから。
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