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18 さよなら、僕の平和な日々よ

 稲元を誘拐して危害を加えられたくなければ……って脅しかけるよね。稲元のじいちゃんは何をしたんだ? それとも、何かをするのか?
 何かをした報復ではないような気がする。報復だというのなら、稲元が僕たちとマックに行った帰りを狙って誘拐して危害を加え、場合によっては脅迫をしたり、最悪は殺すだろう。
 でも稲元は連れ去られていない。まだ学校内にいる。だったら今のところだけど、殺される可能性は低いと思っていいよね。
 ではなぜ犯人は学校にいるんだ? 学校にいる理由はなんだ? 目撃者を殺さないのはなぜ?
 犯人は稲元をどう使うんだろうか?
 やはり牽制だよね。稲元を無事に帰してほしくばってさ。
 稲元のじいちゃんは何をしたんだ? もしくは何をしようとしているんだ?
 あまりにもどちらの動きも急すぎないか?
 稲元のじいちゃんは昨日、美佐子さんに稲元を安全なところまで、逃がして欲しいと依頼した。
 そして今日、稲元は敵に捕まった。
 稲元のじいちゃんは、今夜、もしくは明日など、ごく近い日に何かをしようしている? それが敵にとっては非常に困ることなのだ。困るというレベルではないだろうけど。
 代議士と左翼。どういう繋がりと敵対図が考えられるだろうか……
 考えられるのはあれだよね。
 政治に金は付き物ってやつ。
 でも稲元のじいちゃんが賄賂を受け取っているなら、逆に脅迫されているはずだから、きっとその反対。
 左翼側が金銭関係のトラブルを握られているって感じだろう。
 でもなぁ……ちょっとおかしいな、それじゃ。そういう仕事は代議士の仕事じゃない。警察や地検の仕事だと思うんだよね。
 でもまぁ、仮にそうだとして、稲元のじいちゃんはその情報をどこで仕入れ、なぜ身内に危険が及ぶような事になるんだろうか?
 そもそも左翼とはなぜ関わりあうハメになったんだろう?
 んー……あ、考えられる可能性あった。
 稲元のじいちゃんは、左翼とつながりのある第三者の情報として、それを告発しようとしているんじゃないのだろうか?
 だがしかし告発する前に、左翼側に情報が漏れていたことを知られ、脅されているんだ。
 だから稲元に危害が及ぶ前に、セットフリーターである美佐子さんに、稲元を安全と思われるところへ、逃がしてくれるように頼んだ。けれど運が悪く稲元は左翼の連中に捕まってしまった……
 これで、一応納得できそう。
 足りないところはきっとまだまだあるんだろうけどね。
 僕はそっとため息を漏らして、衣装の山をかき分けて顔を出した。物音は今のところしない。
 そろそろ美佐子さんに連絡しないとならないけど、やはり確認するのは難しい。そこで僕は中間報告メールをすることにした。
『現在敵側は目視で四人確認。推定で八人はいると思う。稲元たちの姿はまだ確認してない。学校中に電気がつけられているために、迂闊に歩けない状況なんだ。でも僕の予想では校長室。あそこなら鍵がかかるし、教室よりは狭いし、なにより職員室の隣だから、閉じ込めやすいうえに、監視が楽だからね。でもなんであいつらは学校にいるんだろう? 美佐子さん、何か情報隠してない?』
 送信。
 さて返事が来るまでに、これから先、美佐子さんが来てからの今後の作戦について考えておくか……
 常識を踏み壊すことに対しての、心の準備も必要だし……
 僕は衣装の中から出てぐっと背筋を伸ばす。
 こうなったら……こうなったら……後は野となれ山となれ。
 あぁ……神様、仏様ごめんなさい。美佐子さんを止めるどころか、一緒に行動してしまうなんて……ごめんね、父さん……って、赤の他人なみに知らないんだよね、これがさ。
 僕はため息をつきながら、黒の衣装に手を伸ばした。
「……」
 理性も感情も、『よせ、今のうちに現実に帰るんだ!』と僕に訴えかけているが、もう遅い。
 その現実で普通に生きていくために、僕はどうしてもヤケクソにならざるを得ないのだ。 美佐子さんさえ絡んでなければ……とっくに警察まかせなのに……なのに…… 美佐子さんのばかぁぁ!
 僕は泣く泣く黒のマントを身に付けた。マスク・オブ・ゾロのような、ひらひらしたやつだ。続いて小物を入れている、大きな箱に近づき中を物色する。このマントとセットになっていそうな羽のついた黒い帽子を発見。それを被る。革の手袋を発見したが、僕の手には少し小さい。これは断念する。しかしサングラスがあった。これはつける。
「あっ……危ねぇ……」
 こんな格好じゃ、どこから見ても変質者。おまけのはてに双眼鏡を下げているのだから、もしもここに警察が来たら、間違いなく僕も職務質問のうえ、任意同行ってやつにあうね。 確実に。
 なんでこんなキテる格好をしたかには、もちろんわけがある。だって制服着てるじゃん? この格好だと全身が隠れるかなぁなんて思うんだけど……やっぱり変質者だよね。
 僕も美佐子さんも、稲元たちに知られるわけにはいかない。
 中でもこの僕が絶対に知られるわけにはいかないのだ。
 なぜかって?
 美佐子さんが乗り込んできて、方法はともかく、敵を一網打尽にしたとするでしょ? で、稲元たちを救出するわけじゃん? 美佐子さんのことを知っているやつがいないことは、不幸中の幸いなんだけど、僕はクラスメートやら同学年のやつもいてさ? 僕と美佐子さんで助けたと知られると、困るわけじゃん…………セットフリーターなんて世間に顔向けできない仕事をしている母親がいるなんてさ……僕のこれから先の普通の高校生生活を送るためにはさ………僕はあくまでもマックで、約束をすっぽかされたってことにしてなきゃさ。
 ポケットの中で携帯が震えた。どうやら美佐子さんからの返信らしい。
『電気をつけられるとやっかいだわ。どこかに配電版があるはずよ。ブレーカーを落としなさい。それを合図に中に乗り込むわ。その前に電話を頂戴。メールじゃ埒があかないわ』
 と、何やら最もらしいような、物騒なような返事が届いた。確かに……メールより電話だな。また音楽室に移動するか。
 僕はドアに近づき耳を澄ます。物音なし。
 続いてドアをあけて廊下の様子を伺う。人影もなし。
 僕はドアをそっと開けて廊下へ出る。うわ……マントがひらひらしていて邪魔だ。僕は一度それを外して、帽子も取り、その中に押し込む。それを胸に抱えたままで階段へと近づく。物音を確認して、そのあと踊り場から目視。安全確認を怠らず音楽室へと向かう。中にたどり着くとほっと息を吐いて、先ほど同様、教壇の机にもたれた。
 それから帽子を傍らにおいて、美佐子さんに電話をした。

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