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フレンチトーストを考える。

先月の4/21にフレンチトーストのレシピをツイートしました。

このきっかけは、おうち時間を過ごす人たちの多くがフレンチトーストやパンケーキを作っており、自分も作ってみようと思ったことが始まりです。

僕はレストランで働いて来ましたが、ちゃんとフレンチトーストを作った事はなく、今回初めて向き合って見た感じです。色々な学びがあったので、その学びをこのnoteでシェアできたらなと書いています。




レシピをどう考えるのか


そもそも作った事のない料理をどう考えるのか?ここから話したいと思います。料理人は働く店や自分の好みの関係で作って来た料理がかなり偏ります。なので全員が同じような料理が得意なわけではありません。

特に自分が一番最初に働いたお店の影響を色濃く受けるので、それ次第な部分も大きいです。僕はそういう意味ではデザートが一番得意かもしれません。

今回のフレンチトーストとパンケーキの二択からフレンチトーストを選んだ理由はいくつかあります。

①材料がどこでも手に入る
②食事にもデザートにもなる
③調理過程に介入の余地があり、そこに技術がいらない

①と②はパンケーキにも言えますが、③はフレンチトーストだからこそです。

パンケーキの場合、差別化をしようとするとメレンゲを立てたり材料にアーモンドパウダーを使ったりと変数が多くなります。そして技術の均一化がとても難しい。特にメレンゲの立ち具合を説明するのは至難の技です。そしてメレンゲ立てるのがめんどくさい。これが一番。

しかしフレンチトーストのレシピの場合、ほとんどが材料を混ぜて浸すだけなので、調理工程には改善の余地しかありませんでした。

フレンチトーストを考えると決めてからはいろんなレシピを比較検討します。



レシピから見える製作者の意図


小説の文章から著者の心情が見て取れるように、レシピからも製作者の意図が見えます。材料の比率や調理工程、少しの分量の違いの中に大きな差が見えるのです。

フレンチトーストの場合材料はシンプルです。

牛乳(生クリーム)

砂糖
バター
パン

この4種類を混ぜてパンを浸すだけです。簡単。

ではこの4種類からどんな意図を見いだすのか。ここが肝心です。

牛乳はパンを浸すためのメインの水分です。もしかしたら水でも代用できますが自然な甘さや乳脂肪分の関係で牛乳になっていると思います。そしてそれをよりリッチにするのが生クリームですね。

牛乳だけか、生クリームを足すのかで考え方が分かれます。どちらが良い悪いではありません。それぞれに意図がありますし、作る人でも考え方は変わります。わざわざ生クリームを買うのが面倒な人は牛乳だけで作るでしょう。

卵はフレンチトーストのあの食感を生み出すために必要です。卵に火が入る事で食感を得られるのと卵黄による油脂のコクが求められます。卵無しで出来ないので最も核になる材料でしょう。卵の性質や加熱温度による変化なども考える必要がありますね。

砂糖。これは甘味を付けるのがメインの役割ですが、それ以上に濃度をつける役割や水分を保ちやすくする役割などがあります。どの食材にどのタイミングで砂糖を加えるかでも製作者の意図が感じられますね。

バター。これは主に焼く時の油脂として使われますが、一番大切なのはその香りです。バターの温度の上がった時の香りはなんとも言えない幸福感があります。そして焦がす事で旨味のある香りに変化します。この変化を料理に活かす事が重要です。

そしてパンです。パンはなんでも良さそうですが、フレンチトーストという料理を真剣に考えた時にどんなパンがいいかは考えるべきです。発祥は古くなったパンを美味しく食べるためのものですが、時代が違うのでパンにもこだわりたい。フレンチトーストのタレ(漬け液)がどのような性質か?を考える必要がありますね。



その料理の本質的な美味しさはどこにあるのか。


料理ごとに美味しさのポイントは違う。もう少し深掘りすると料理によって美味しさを最大化できるポイントが違う。これは名前のある料理とそうでない料理で考え方が変わりますが、基本的にはその料理たらしめる部分はどこなのか?一番食べさせたい食材が何で、その場合味のデザインをどう表現するかで変わってきます。

フレンチトーストで言えば食感で、その核となるのは食パンとタレ。

食パンはタレをたっぷり吸わせるために気泡が多くて軽い生地のほうがいい。タレは加熱によって食感が変化するための最重要部分なので、加熱後の変化に重きをおく。

基本的には卵の凝固作用を使うのですが、そこに油脂をどう絡ませるかが大切で、乳化がここでも大切になってくる(ここでの乳化は概念に近いのですが)

油脂を加えてリッチになったほうが美味しく感じやすい。ただ単に多くするだけではダメです。バランスをどう取るか。油脂は諸刃の刃なので多くしすぎると重たくなり食後感が悪くなる。なので足せばいいってものでもない。

牛乳に対して生クリームをどれくらい加えるか、全卵ではなく卵黄の割合を増やす事でコクをだす、そしてバターを加える。バターは直接ではなく焦がす事で独特の美味しい香りに変化させる事で、量を使わなくても印象的に使える。

さらに液体を加熱してから卵に加える事で、卵と砂糖を完全に一体化させる。このポイントも大切で、冷たいままでは砂糖も卵も牛乳の脂肪分も合わさっただけで、液体としての一体感はない。

牛乳と生クリームとバターを一度完全に沸騰さえる事で一体感を出すことと、その熱により卵を加熱(正しくは加温)することで液体としての一体感を生み出す。

例えるなら水に材料を入れただけのカレーと加熱して煮込んだカレーくらいの違いがある。


温度による変化と差。


僕の作り方は、バターを焦がすところとパンを温めるところが大きな違い。パンをレンジで温めるという行為が大きな違いを生み出します。

一般的な作り方は冷たい混ぜただけの材料にパンを漬けるだけ。これだと液体の油脂分は固まった状態なので移動がしにくい状態でパンの中にも染みにくい。

液体全体を温めることで油脂が染み込みやすい状態にする。これも大切なポイントです。そしてパンも温めることでより染みやすくなります。

パンをレンジで温めるということは瞬間的に水分の動きを良くさせます。そうすることで水分の移動をしやすくし、タレの染み込みを良くするのです。両方を温めることでより染み込んだフレンチトーストになるのです。

ほんの些細なことですが、この2つの工程により最終的な完成度がかなり変わります。中までタレが染み込んで入れば、加熱によってパンの中にプリンを生み出す感覚に近くなります。パンなのにプルプルふわふわになる。

このフレンチトーストの場合、パンの表面は焼くのですが中心部分は蒸す感覚に近い。表面を焼いている時の加熱で中心まで柔らかく加熱するイメージです。だからこそあの食感が生まれます。

焼く時のバターが焦げた香りもいいのですが、それだけでは一体感はない。なのでタレに焦がしバターを加える事で生地全体にリッチな香りを纏わせています。どこを食べても香りが良く、そして油脂を湛えた生地は滑らかでしっとりと仕上がる。

全ての工程に意味が存在し、それによって今までと違う完成度になる。




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新しい料理人の働き方から、個人でどう生きていくか、どう価値を生みだしていくかを色々な視点で書き綴ります。月3~4回ほどの更新なので、定期購読がお勧めです。

曜日や時間、場所に捕らわれずに料理を自由に表現するためにレストランを辞めた料理人の働き方を変えていく奮闘記。 これから増えていくだろう料理…

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